25話 『目的のために』★
―前回までのあらすじ―
ネーアイズフライン、そして魔王様登場!?
長男の後ろ――何もないはずの高台の頂上がゆらゆらと揺れる。
そしてその長方形の揺らめきが次第に人型を帯びていき・・・一人の子どもが姿を現す。
白髪碧眼で短く尖った耳をもつその中性的な魔王と呼ばれた子は、長い髪を揺らしながら長男から見て右斜め前に立った。
「なに《バタシ》。ぼくまだ眠いんだけど」
「オヤオヤ?ダメでちゅよー魔王様ぁ。こんなところで寝てはお体に障りまちゅよ?めっ!」
「……ぶう」
「ッッッざけンじゃねェエエェェエエェ!!!!」
2人のやり取りに苛立ちが最高潮を超えに超えたアレルは、我慢ならずに突撃を仕掛ける。
その剣を腰に構えて魔力を峰から剣先に向けて籠め、同じ順番で魔力を凝縮、爆発させて超高速の一撃を魔王めがけてお見舞いしてやる。
その一振りは魔王の小さな体を中心から真っ二つに割き、上半身がぼとりとグロテスクな音を立てて長男―――バタシの前に転がった。
アレルはそのまま前に出している左足を起点に方向転換。
振り切った左手の向きを180度変え、同じように高速の一撃をバタシに向けて仕掛ける。
「っと魔王様ーちゃんと避けるか防御とらなきゃだめでちゅよぉ。バタシの魔力も無限じゃないんですからぁ」
言いながらバタシはしゃがみ、アレルの攻撃は空を斬った。
――と同時にバタシの左手は魔王の上半身を掴みながら、右手はアレルの左腕を掴む。
そしてアレルを一振り、元の位置に放り投げてから魔王の上半身を下半身の上に乗せた。
傷口にバタシが手を触れて魔力を送り込むと、見る見るうちに衣服諸共傷が塞がってしまう。
「無理だよ。あんなはやいの避けれるわけないじゃん」
魔王がバタシに愚痴をこぼしながら持っているクマのぬいぐるみをポコポコと叩きつける。
「イエイエあの程度は避けれるようになってもらネバ!時代の魔王としてハズカシイ限りでございますよぉ!」
「ッとふざけた態度しやがって……!!」
一周回って頭が冷めてくるアレルは直ぐ次の一手を仕掛けようと剣を構える。
――と、同じくしてお説教モードのバタシが左手をアレルの方へ突き出して「待て」の合図。
アレルは構わずバタシに向けて走り出し、初撃の一振りを繰り出す。
「わわわっ!んもう、待★て!と言っておりますでしょうにぃ!」
バタシはこれを後ろへ避けながらそう言う。
しかしアレルは振った剣をそのまま下へ斬り下ろし、これまた魔王が今度は縦にぱっくりと割れてしまった。
「魔王様ぁ!!」
「む……縦はいたい。それより眠い」
真っ二つに割れた口でそう呟く魔王。
魔王の空いた手がピクリと動くのと同時に、アレルは警戒して剣を引き抜き一歩下がる。
バタシが慌てながら傷を治す。
流石におかしいと思ったアレルは、剣を納め2人の方へと普通に歩み寄っていった。
「……なンのつもりだクソ野郎。クッセェ面しやがって、何で仕掛けてこねエ」
「……言ってるでしょ。眠い」
そう一言だけ言って、魔王はクマのぬいぐるみを抱えて寝息を立てだす。
カチンときたアレルは再び剣を抜こうとするが、慌ててバタシがその腕をつかんで止めた。
「ま、待ってくだサイ!これかなり持ってかれるんですよォ!これ以上はバタシも魔力がぁ!!!」
「斬られる前提かよウゼぇ!!………チッ…これだからテメェ等イラつくンだ」
アレルが剣から手を放す。
ホッとしてバタシも魔王を守るように前に立つと、ため息をついて懐からあるものを取り出す。
「……ンだそりゃ……クッセェ」
どす黒いモヤが洩れ出ている手のひらサイズの箱を眺め、アレルは顔をゆがめる。
「〝世界の果てに最も近き存在〟とでも言いましょうかぁ?彼女にはこれでヒトツ……試してもらいたいことがあったのですよぉ」
ネーアに試してもらいたいことがある。
その意が何かはともかくとして、アレルはその言葉に対して言いようのない怒りを覚えた。
何故この様な感情が出てくるのかは分からない。が、相手に〝今は〟戦う意思がないことを見て取れたアレルは、剣に手を向けるのを抑える。
「それが…わざわざ攫うようなマネする理由になンのかヨ」
なぜこんな怒りがわくのか……考える間もなくそんな言葉がアレルの口から漏れた。
「イエイエこれは申し訳ございマセン!なにぶんこちらとしても不都合が出てしまいましてぇ……主にレルレサンのせいなんですけどねぇ。彼女の精神状況、御存ジ?」
バタシが首をフクロウのように回転させて問う。
「ア…?何が言いてェ」
「イヤァ……彼女、相当不安定ですヨ?今。本当は?正規の手続きでもってコレに〝触れテ頂きたい!〟しかしながらですネェそうもいかなくなってしまった!このままでワ恐らく拒否されてしまいますのでェ、僭★越!ながら攫わせていただいた所存でゴザイマス!」
「ますます意味わっかンねぇ……結局何が言いてえンだヨ!!」
アレルが我慢ならんと手を剣の柄にあてて叫ぶ。
まあまあ焦らずと手を前に立てるバタシは、そのまま深々と頭を下げた。
「見つかってしまっては仕方あしまセン……どうか、お願いを聞いて頂きたく参ったのでゴザイマス」
「願い……?だったらなンであんな出方した。納得いかねェ」
アレルは剣をバタシに突き立ててそう問う。
「イエイエイエイエイエ申し訳!主を守るのがバタシの役★目!!何分魔王というご身分は外出も大変危険なのですゥ。先程申しましたがぁ?本来は〝正規の手続き〟でこのルネレディアに参りましたバタシ共!見つかった以上罰はお受けしまショウ!シカシィ!その前に勇者サマにお願いヲバ!!」
「……うっぜぇ」
やるきも失せたとばかりに剣を鞘に納めると、納得いかないながらも歯を食いしばってバタシに言った。
「なンだよ、願いって」
そのアレルの言葉に顔をあげ、ニコッと満面に笑みを浮かべるバタシ。
「どうか、彼女を元の健★全!な姿に戻して頂きたイ!」
===[王都メフィル] 宿屋ステイラ前===
アレルに魔法で飛ばされたネーアは、泊まっていた宿屋にピタリと着地した。
「すごい便利・・・あれかな、ドラクエのルーラみたいな……じゃない、スマ探すんだっけ!」
何やら町で騒ぎがあったようで辺りが散らかっていたが、急いで宿の部屋に向かう。
(そう言えば試験放りっぱなしにしちゃって……もう夜だし、メルオンさんとメリィ戻ってきてるかな)
そんなことを思いながら部屋をノックする。
―――と、ものすごい足音と共に勢いよくドアが開けられた。
中から出てきたメリィとメルオンが思いっ切りネーアに抱き着く。
「……心配かけやがって!どこ行ってた……!!」
「でーーあーーーーー!!」
「えっ………と、その……ごめん、なさい」
しばらくそのままの状態で時が流れる。
そして中に入ってあれから……試験の手続きからどうなったのかを二人に話した。
「で、なんでかアレルがスマを探せって言って……ここに」
「そのなんでかは……言わなかったんだな。スライムなら嬢ちゃんがあそこおいてっからオレが見た限りじゃ動いてねえよ。時間なさそうだが、戻る算段ついてるのか?」
「あ………!」
高台まではかなりの距離があった。
直線距離でも宿から数キロは離れているその場所へ、どう間に合わせるというのか。
しかし考えている暇はない。窓辺にいるスマをつまみ上げる。
するとスマが目を覚まして何やら言いたげにネーアを見つめた。
「?……何、スマ」
問いかけても返事はない。が、スマはじっと不服そうな目でネーアを見つめている。
―――ネーアは、スマの声が聞こえなくなっていた。
つづく
ハイ!書きにくいしぃ読みにくい!!そんな魔王様の側★近!!バタシでございマスぅ。
いえ、はい、ごめんなさい。こういうウザキャラ好きなんです。なので必然的に後から出る登場人物がうざくなります。ご了承ください。
以前もあとがきに書きましたがこのお話は勇者と魔王のお話じゃないんですよね。さりげなくバタシ言ってますが、今回本当は正規の手続きを経て大国に訪れています。
つまりどういうことかというと、魔王率いる彼らと大国が代表する人間族亜人属、対立していません。もちろんよく思わない人もいると思いますけどね、この辺はいずれ本編で触れるとしましょう。