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召喚されといてなんだけどおうち帰りたい  作者: かんむり
第2章 災禍の渦と勇者の伝承
25/80

24話 『刺客』

 ―前回までのあらすじ―

 ネーアは優等生だった

 ===[王都メフィル]冒険者ギルド周辺===


「おい、いたか!?」


 メルオンは同じ目的で動いているらしい人物と四つ角で出会い声を荒げて問う。


「いいやこっちは見てねえな……クッソー可愛いもんなあそりゃ攫いの一人や二人でるよなあ!」


「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!目と足動かせ!」


 昇級試験前、突如ネーアがギルドからいなくなった。

 受付が名前を呼んでも一向に返事がなく10分が過ぎた頃、女子トイレの前で一つのリボンが見つかり辺りが騒然とした。

 そのリボンはネーアが髪を結うのに使っていたものだったのだ。

 それから約3時間、その時ギルドにいた100人弱のほとんどが王都内を探し回っている。


 あるものはギルドの中を

 あるものはギルド周辺に聞き込みを

 あるものは人気のない路地を

 あるものは気配を探り


 しかし、ネーアの手掛かりはそのリボン以外には何も見つかることはなかった。


 =========


「おイ!オレぁこンなことしてる場合じゃねェンだヨ!!!」


「ダメじゃ。おんしを行かせるワケにゃいかん」


 アレルもそこに合流しなければなかったが、そのやけにしゃべり方が古臭い小さな女の子に抑止されている。


「ふざけンな!オレぁアイツの護衛しなきゃなンねェンだヨ!!行かせろ!!」


「ンー?……いやァ信じられんなぁ。おんしはこの辺じゃ見ん顔じゃ、怪しいモンをそうそう行かせるわけはありますまいよ?」


「こンのクソババァ………」


 アレルはその少女に拳を突きつけるが、彼女の1m手前で見えない壁に弾かれてしまった。

 少女はニヤケ面でアレルの手首を握ると、その手をモップへと持っていき握らせる。


「ほれほれ、まだゴミは残っとるぞ?連中あの子探そうと相当暴れ追ったからの。キレイにしたら行かせちゃる、さっさとし!!」


「こンのオ……クソガあぁ……!!」


 アレルはその少女にされるがまま、ギルド内の清掃をしていくのであった。




 ===??????===


「―――んン……ン!?」


 見たことがないステンドグラスの天井。

 ネーアは目が覚めると、四肢と口を何かに縛られて知らない部屋に寝転がっていた。

 

(ここは!?……私は確か、試験前にトイレだけ済ませようと思って――)


 幸い目はふさがれていなかったため、周囲の状況を確認してみる。


 その部屋は上に見えるステンドグラス以外、黒いレンガに覆われた円形の塔であるようだった。

 階段などもなく、なぜこのような造りになっているのかは全く見当もつかない。

 一つ、出入り口と思われる扉もあるが、無論鍵がかかっている。

 自分以外に何かがある様子もなく、ただただわかるのは自分が幽閉されているということのみ。


(……怖い)


 この数日間、すっかり忘れていた感情が顔を出してくる。

 数日でのし上がるように名を上げていったネーアは、尊敬や期待と共に恨み辛みを買っているであろうことも、周囲の視線からわかっていた。

 分かっていたからこそ、こうなると怖かった。

 若い女が拉致監禁された後にどうなるか、先を考えるだけで恐怖が何倍にもなって襲い掛かってくる。


 どうかその扉が開かないでほしい。

 あわよくば夢であってほしい。


 縛られた手足で体を丸くし、じっと恐怖に耐える。

 何時間も、ただただじっと。

 そして目を覚ました時まだ明るかった塔内は、いつの間にか夜の闇に飲まれていた。


(お風呂……入りたいな)


 汚れた服を見て、初めて恐怖以外の感情を脳裏に宿らせたその時。

 ――ガチャ。


「ン――ッ!!!!」


 たった一つもうけられた木製の扉から、開錠されたような音が塔内に響いた。

 ゆっくりと、着実にその扉が開いていく。

 ネーアは足音が聞こえるのと同時にギュッと目を閉じ、丸くなっている全身を強張らせた。


(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖怖い怖い怖い怖いい怖いい怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い――――――ッッッ!!!!!)


 恐怖に押しつぶされそうになる。

 いや、もう半分はつぶされかけているのだろう。

 中に入ってきた者が自分に近寄ってくるまで。

 そのほんの数秒が永遠のように長く感じる。

 ―――そして



「オイ!起きろクソアマ!!」


 ドスッと背中を蹴られる強烈な痛みと同時に、聞き覚えのある声が頭に響く。

 恐る恐る顔を背後に向けてみると、そこには今にもブチ切れて暴れ出しそうな顔をしたアレルが立っていた。

 アレルは数十秒に一度舌打ちをしながら、ネーアを縛る布をちぎると、マントからリボンを取り出して渡す。


「あ、ありがと……でもなんで、アレルがこれを」


「チッ……。ギルマスのババァが持ってたンだよ!テメェが消えたっつー便所で拾ったンだとヨ!」


 散々自分をこき使った少女に怒りを露わにしながらネーアにそう言うと、彼女の手を掴んで塔の外へと急いで走り出した。


「え、ちょ!?わ!!ま、待って!!」


「ンな暇はネェ!!急げ!すぐに来る(・・)ぞ!!!」


「は!?来るって、なに!」


 荒野にポツンと建っている黒い塔を背に、ネーアは訳も分からずアレルに問い叫ぶ。

 しかしアレルはただただ額に汗をかきながら走る。


「ちょっと、何が何だかわかんないって!」


「ッるせエ!今はついて―――――ッ!!!」


「いたっ!」


 塔から一直線に高台へ走り……頂上が見えて来たというところでアレルは急ブレーキをかける。

 背中にぶつかったネーアはむくれっ面でアレルの横顔そ見ると、その顔には明らかな恐怖が感じられた。


「ダーメじゃなぁいか勇者サマ……その娘は我々に必要なんですよぉ」


 アレルの見据える先―――長身でスーツのようなものを着た長耳長鼻の男が言う。


「ノッポ野郎………テメェか?穴倉のクソを仕込みやがったのも」


「クソとはワ……?」


 色々長い男は少し顎に手を当てて悩む素振りを見せると、ポンと手を叩いて見せた。


「あーぁもしかして《レルレ》サンのコトですかなぁ?イエイエ申し訳ゴザイいません。彼女の行動は完全な独断!オカゲで警戒を強めてしまいましたからァ、後ほどバタシの方から厳★重★注★意!しておきますゥ」


 ―――プツン。

 アレルの恐怖していた顔が怒りに満ちる。

 ネーアはぎょっとしてその顔を見ると、アレルは掴んでいた手首を後ろへ突き放すようにした。


「クソアマ!テメェスライム探せ!!」


「え!?」


 言われてみれば頭の上にスマがいない。

 いつから?

 この数日間、そんなことなど気にしたこともなかったネーアは最後にスマをどうしたかその場で思い出そうとする。

 それは初めてギルドの依頼をこなして宿に戻った時。

 その時に窓辺にスマを置いたきり、全く気にかけていなかった。


「………宿?」


 思い当たるところを口にすると、アレルがネーアに魔法をかけるようにして左手を向ける。


「宿だナァ!!!絶対そのバショ頭に置いとけェ!!」


 瞬間、ネーアの体が光り宙に浮く。


「わ!ナニコレ!?へ!?」


「絶対探しだせ!オレが死ぬ前になァ!!」


「は!?何言って……ちょっと理由くらいッキャアアアア!!!」


 そのままネーアははるか後方に見える王都へ向かって飛んで行った。

 



「オヤオヤ……本当にダメな人だァ。お嬢さんが王都へ逆戻りしてしまいました…これではァ?バタシの立場もあったものではゴザイマセン!!」


「ッるセェよ……テメェ()は今、オレがブッ殺す」


 不可解な動きをしながらテキパキと言葉を発する長男に続いて、アレルが剣を彼に突き立てて言った。


「フムゥ、気づかれておいでですかァ。流石勇者サマだこの手の気配には敏感なんですねぇ!」


「ッるセェっつってンだろ。サッサとででこいヨクソ野郎」


「オオッ怖い怖いぃ。デワお言葉に甘えて……魔王様(・・・)のおなーーりぃーーーー!!」





 つづく

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