23話 『それからの日々はとても楽しくて その2』★
ー前回までのあらすじー
冒険のはじまりだ!(勇者とかいうストーカーつき)
===[グレン荒野]北東部 竜骨の墓場===
冒険者ギルドのクエストは、そのレベルによって10の区分を設けている。
最低ランクがランク01シルバー。次がランク01ゴールド。その次がランク02シルバーと、各ランクごとシルバーとゴールド、通常の最高レベルがランク05ゴールドという具合になっている。
ネーアたちはメルオンが選んだランク01シルバーの依頼を受け、グレン荒野北東部に来ていた。
「嬢ちゃん!そっちいったぞ!!」
「はああぁぁぁ!!」
ネーアはとびかかってきたその1メートルほどのトカゲに短剣を突きつける。
勢いそのままに短剣が顔の真ん中を貫通して、そのトカゲは真っ二つに割れて乾いた地面に落ちた。
すぐにメルオンが駆け寄ってそのトカゲから尻尾と鱗を剥ぎ取り、専用の素材袋に放り込む。
ここまで仕留めたトカゲの数は約100匹。
グレン荒野で大量発生したとのことで討伐依頼が出ていたのだが、ネーアが20、メルオンが60、たまにメリィが何体か。そして協力して20。すでに依頼数の何倍かは討伐していた。
討伐数は尻尾の数でカウントするらしい。
「うん。まあこれだけ取れれば上々だろう。……しかし驚いたな、嬢ちゃん体格に似あわず結構動けるじゃないか」
「だから言ったじゃないですか!運動神経はいいんですよ、私!」
これは半分本当だ。
中高とそれなりに体育の成績はよかった。
先生に褒められたこともあったし、卓球部に所属していたためその場の瞬発力にもそれなりに自信があった。
まあもちろんそれだけでは実戦で魔物と戦えるわけはない。
もう半分は、某ハンティングゲームのイメージを自分なりにこの体で試してみている。
言ってしまえばゲーム感覚だ。
そんでもってこの人獣という種族、もともとパワーや瞬発力、そして聴力や嗅覚等々。動物の能力を+αで有しているため基本能力は人間より高いらしい。
それも相まってこの程度(最低ランク)のクエストであれば問題なくこなすことができた。
「ハハハ スマンスマン。しかし人獣族ということを抜きにしても、初めてにしては本当によく動けていたと思うぞ」
「それはどうもありがとうございます。このまますぐにメルオンさんも追い抜いちゃうかもですね♪」
「ぬ?それは困るな、オレの立場がなくなる」
「ネーア…………」
ネーアとメルオンの間に笑いが起きる。
しかしメリィだけは、その場に馴染むことができなかった。
===[王都メフィル]冒険者ギルド===
「す、すごいです……本当に、初見で20匹も?」
「ああ。始めは心配だったが、あの子は逸材かもしれないな」
カウンタ―の女性とメルオンが討伐報告の場でそんな会話をしている。
普通は初見でのトカゲ討伐数は精々10体行ければいい方で、将来有望、金の卵とさえ言われる。
初級レベルだからと侮って帰ってこなかった人間もそれなりにいる。
それを人獣族とはいえ、女性が初見で20討伐となれば声も上がるというものだ。
その将来有望なネーアはというと、一足先にメリィと夕飯を食べていた。
「にしても驚いたなあ、こっちの世界にもカレーがあるなんて」
「ネーア、本当にこれでいいのさ?」
「ん……何が?」
メリィは不安と心配を一緒くたにした深刻な表情でネーアを見る。
彼はあれから―――ネーアの様子が変わってしまった穴倉の時から、ずっと彼女のことを気にかけていた。
「ネーア、変だよさ……なんか無理してるっていうか……」
「何々、心配してくれてんの?大丈夫だよ、私はいつも通り!」
「それだよさ!その私って言うのも、なんか……とにかく変だよさ!!」
メリィの叫び声に周囲にいたほかの客や冒険者がメリィの方を振り向くが、すぐに各々のしていたことに戻っていく。
ネーアはその手を一瞬止めて顔を顰める。
――が、すぐに表情を戻してメリィに向き合った。
「大丈夫ったら大丈夫なの。ホラ、メリィも早く食べないと冷めちゃうよ?」
「……う、うん………」
メリィは納得がいかないながらもこれ以上は言うまいと諦め、スープが入った皿に手を付ける。
2人が食べ終えたころ、メルオンもカウンターから戻ってきてネーアの斜め前の席に座った。
「嬢ちゃんどうだった、初めての討伐は」
並々と酒が注がれた樽ジョッキを手にメルオンが問う。
ネーアは腰に付けた短剣をテーブルに置いて、それを撫でながら口を開く。
「なんていうか、答えになってるかわからないですけど……すごく楽しかったです!こっちに来て一番」
「……そうか。ならよかった」
メルオンはそう言って酒を豪快に喉へと放り込む。
そして半分ほど減ったジョッキをテーブルに置き、肘をついて明後日の方向に顔を向けた。
「10年に1人の逸材。黄金の卵。受付連中は嬢ちゃんの話しで持ち切りだ」
「な……なんかそこまで言われるとすごく歯がゆいですね……」
ネーアが苦笑いしながらそう言う。
メルオンはそんな彼女を真剣な眼差しで見る。
メリィも一緒になって見つめると、ネーアは顔を赤らめて2人から視線を外した。
「な、なんですか!2人して……そんなに見られると、その……照れます」
そこにメルオンが口を開いて何か言おうとするが、一回言うのをやめて残りの酒をぐいぐいと喉に押し込む。
空になったジョッキをテーブルに叩き、プハァーと一息ついてから、再度口を開いた。
「ハハハハ。美少女に見惚れてしまったのだよ、わかってくれ!嬢ちゃんさえよければ明日もまた何か依頼をこなそう。期待されてるんだ、言えばきっといい仕事を寄越してくれるぞ」
「ほ、本当ですか!是非お願いします!!」
「いい返事だ。じゃ、今日はもう宿に戻るか。明日も早くなりそうだしな!ほら、いくぞメリィ」
メルオンは横で重たい顔をしてうつむいているメリィの頭にそっと手を添えてそう言う。
メリィはその不安げな顔をメルオンに向けると、頷いて席を立った。
「…………」
護衛を頼まれて同じ酒場にいるアレルも席を立つ。
すると、ネーアたちとその周囲しか見ていなかったアレルは何かにぶつかって体勢を崩しかけた。
何かと思ってぶつかったものを見てみると、そこにはアレルの腰ほどの身長である女の子が一人。
「ア?……なンだお前?」
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翌日以降、ネーアたちは着実に仕事をこなしていき、ギルド内でもネーアのウワサが流れるようになっていた。
流石アザ持ちの彼女だとか、強い上に可愛い人獣族の女がいるとか、可憐だ!結婚したい!とか、その内容は様々だが通い初めて5日が経つころには顔も覚えられ、ネーアがギルドに入ると辺りからものすごい声が上がっていた。
その声援はとても心地が良くて、今まで起きた嫌なことなど忘れてしまえそうとも思えたほどだった。
そして6日目―――
「一週間もせずに01ゴールドの昇級試験とは、流石ですね。普通は一か月ほどかかるんですよ」
「そ、そうなんですか!?……いやなんか、皆過大評価しすぎてる気がしてならないんですけど……まあいいです。手続き、お願いします!」
カウンタ―の女性のその言葉にネーアは驚きを隠せない。
ここ数日で名が売れてしまったせいか、どこか周囲の視線が気になり始めたネーアは足早に試験の受付を済ませたかった。
「では、こちらの書類に著名と押印をお願いします」
「はい――――っと」
言われる通りに手続きを済ませ、案内がされるまでギルド内で時間をつぶす。
昇級試験は専用の依頼やらがあるらしく、用意するのに少し時間がかかるということだ。
「そういえば……試験前の鉄則だよね」
思い出したかのように、ネーアはカウンター脇――お手洗いと書いてあるその看板の扉をくぐる。
―――そして次に気が付いた時、ネーアは全く身に覚えのない部屋にいた。
つづく