22話 『それからの日々はとても楽しくて その1』★
―前回までのあらすじ―
日本語読めなくなっちゃった
ネーアはひとしきり考えたあと、涙にぬれた顔を拭き寝ているスマを定位置に乗せる。
生徒手帳を胸ポケットにしまい、立ち上がってグルッドに前に立った。
「ん…。どうした、もう大丈夫なのか」
グルッドはネーアのその表情を不思議そうに見て言った。
これにネーアは笑って彼の顔を見る。
「はい。ご迷惑おかけしました……もう、大丈夫です」
「そうか?……で、では行くとしよう」
どこか様子がおかしい。
そう思いながらもグルッドは彼女の意思を尊重した。
素早く全員を出口の方へ集め、グルッド、神官、アレル、メリィと続いて先に進んでいく。
「?……なんだ嬢ちゃん、早く行かんと前見えなくなっちまうぞ?」
が、ネーアは出口に入らず、後ろにいるメルオンの方を向いている。
メルオンは彼女のいつもとは違う、どこか力が抜けたような表情を不信に見ながらも、直後その口から出たことを真剣に受け止めた。
「メルオンさん。ボク………いや、私―――――」
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===[王都メフィル] 城内 王座の間===
王都に戻ってきたネーア達6人(+1匹)はひとまずルーダス王の元へ報告に来ていた。
「ふむ……つまりは世界の果ては目視すらままならないまま消えてしまい、そこに彼女……ネーア殿と同じ容姿をした人獣がいた……と言うことでいいのかな」
「ええ、そして不可解なのが………」
グルッドはアレルが軽くあしらわれたことや、その人物が言っていたこと。穴倉入り口からメルオンが持ち帰った耳をルーダスに見せる。
「我々が穴倉に着いた時、既に兵たちはそこに居ませんでした。始めは伝令が回ったのかと思いましたが……何者かに情報が洩れ、やられた可能性が高いでしょう」
「そうか。狙いは世界の果てか、はたまた違う何かなのか………周囲の警戒を高めた方がいいな、同時に穴倉周辺を捜索!他に手掛かりがないか探させる。グルッド、さっそく頼む」
「はっ!」
グルッドは返事をしたあと、メルオンに目配せをして王座の間を後にした。
見送ったルーダスは他の5人のほうを見直す。
「メルオン殿達も楽にしてもらって構わない。ただネーア殿、キミは少し注意してくれたまえ。今回の件は恐らくだが不慮の事故のようなモノだろう。マ素の潜伏期間はおよそ1週間と言われている……勇者の力で浄化されてはいるだろうがくれぐれもだ」
「メルオンならまあ大丈夫じゃろう。わしも調べごとが終わり次第町に戻るでな、頼んだぞ」
「……承りました、ではオレたちもこれで」
メルオンたち3人もそうして王座の間を出ていく。
ルーダスは最後にアレルを見て手招きをすると、そっと彼に囁いた。
「アレル……君には少し別の依頼がある。いいかな」
「……なンだ、改まって」
ルーダスは神官に目配せをする。
それに神官は頷いて後ろの禁書庫に入っていった。
「まあ、そこまで隠すような事でもないんだがね……アレル、君にはネーア殿の護衛についてもらいたい」
「ア!?」
アレルは頬を少し赤らめて驚く。
「ただの護衛ではない。先の不審者……きっとまた君やネーア殿の周辺に現れるだろう。念のためできるだけ目立たないように護衛をしてほしい」
「………あーったよ」
なぜか不機嫌気味なアレルを不思議に思うルーダス。
そのままぷいっと王座の間を出て行ってしまい、「なぜだ?」と頭を悩ませた。
そこに書庫からでてきた神官はオホンと咳払いをして彼の横に立つ。
「そういう年頃なんじゃよ。放っとけばいいわい」
「そ、そういうものですか!?……まあいい。それよりも爺様、少しお時間いいですか?」
「ム?なんじゃ、真剣な顔しおって」
===[王都メフィル]北町 大通り===
「嬢ちゃん、本当にいいのか?もっと考えた方が……」
「いいんですよ!いい加減居候でいるわけにもいかないですし、これでも私運動神経いい方なんですから!」
「ま、まあ……いいなら止めはしないが」
ネーアはメルオンの案内で町の冒険者ギルドに来ていた。
ことは穴倉を出る前にさかのぼる。
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「ボク……いや、私。冒険者ギルドに登録しようと思うんです」
「はぁ!?どうした急に?今言うことでもないだろうに…」
本当にいきなり言い出してビックリしたメルオンは、彼女を見て感じた違和感などすっ飛ばして改めてその顔を見る。
ネーアは目が合うと少し照れ気味に視線を外して答える。
「その、言ってたじゃないですか……お金稼ぐ方法、見つけないとって」
その言葉にメルオンは「あー」と言いながら、彼女の華奢な身体を見て言う。
「まあ……鍛えればそこそこはいけるだろう。だがいいのか?もっと何かあるだろう、女の子がそんな物騒な世界に足つっこまなくても」
「それは、そうかも……しれないですけど。頼れる人もいませんし……ご迷惑でなければ、ですけど。稽古つけていただけると嬉しい……です」
ネーアは上目遣いでそうメルオンに言った。
やっぱりどこかおかしいのでは?
そう思うメルオンであったが、どこか力の抜けた優しい表情をするネーアに圧されてしまう。
「……――分かった、戻ったら案内しよう……」
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「ご主人……ネーア、どうしちゃったのさ?」
「さあな……オレにもさっぱりだ。ただ、下手に口出しはするなよ」
「………わかってるさ」
(何をしてるんだ、オレは……ここは止めた方がいいんじゃないのか……)
ギルドの中、壁際に寄りかかってメルオンはまだ頭を悩ませている。
酒場も兼業しているそのギルドは、お昼時ということで色々な種族の冒険者で賑わっている。
ネーアは5つあるカウンターの一つで、登録の手続きをしていた。
「ネーア・ラウルスティンさんですね。ではこちらの書類の記入とサインを―――」
しばらくして、まだ悶々と悩んでいるメルオンの元にネーアが戻ってくる。
「おまたせしました!ごめんなさい、ファミリーネームお借りしてしまって」
ネーアがそう言いながら新品のカードをメルオンに見せた。
Name:ネーア・ラウルスティン
Race:人獣族 Sex: Female
RANK:01―SILVER
そのカード――ギルドカードにはそう書かれている。
「ああ、それは構わないが……その」
メルオンは険しい顔で視線をクエストボード……寄りかかっている壁の先にあるソレを見た。
「やっぱり危険だ。考え直すべきじゃないのか?それに」
「それに……?」
言いかけて、なぜか止まってしまう。
メルオンはネーアにどう言っていいのか分からなかった。
様子がおかしいのは間違いない。
しかし今は楽しそうにも見える。
何よりそう、笑顔を見せる彼女に、それを言っていいのかどうかわからなくなっていた。
「…――いや、なんでもない。ひとまずこの辺の、簡単な討伐あたりからやってみるか」
「はい!」
メルオンはクエストボードから1枚、チュートリアルともいえるようなその依頼書をカウンターに持っていく。
手早く手続きを済ませた後、ウキウキ顔のネーアに不安の眼差しを送りつつも、彼女の冒険者としての初仕事へと向かっていくのであった。
つづく