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召喚されといてなんだけどおうち帰りたい  作者: かんむり
第1章:序: 帰路と幻想と理不尽と
2/80

 2話 『ボクは誰?にゃあは何ニャ?』★

―前回までのあらすじ―


 異世界召喚されたらネコミミ娘になってた。



2017/10/3 全体を改稿しました。

「はぁ……」


「元気だすのさー《ネーア》、オイラも世界の果てを探すの手伝うさー」


「……ネーアって誰?」


「君のこの世界での名前さ!召喚主が名前を付けるのは当たり前なのさ」


「……は?」


 自分で承諾したとはいえ、突然召喚されて、肉体改造までされ、名前までも勝手につけられることにかなりの怒りを覚えたネーアは、メリィの胸ぐら(?)をつかんで叫ぶ。


「ふざけるな!!こんな事しといて勝手すぎるだろ!!!ボクにはれっきとした名前が……」


 名前が―――。

 そこで言葉が止まった。

 名前はある。16年間共にしてきた、両親に付けられたその名前が、確かにあるはずだ。

 ――しかし。


「あれ……?なんだっけ……ボクの…名前は…あれ……」


 ―文字も思い出せない。

 友達の名前、親の名前、知り合い、有名人……思いつく限り、自分以外の名前は全部覚えている。


「そんなはずは……ボクの名前は……えっと…………!!」


 ――なぜか、自分の名前だけ全く思い出すことができなかった。


「父さんと母さんの名前はわかる……苗字は…………くそ!!!」


 両親の下の名前はわかるのに、苗字は……自分の名前に少しでも触れるとわからなくなってしまう。

 ネーアは広大な平原に怒りの拳を何度もぶつけた。

 何度も何度も、声にならない怒りを、異世界の地面にぶつけ続けた。

 ――すると、ネーアが着ていた制服の胸ポケットからあるものが転げ落ちる。

 手のひらに収まるサイズの小さな手帳。

 学生であるネーアが自身の身分を証明する、数少ない情報源。


「―――生徒手帳!!」


 ここなら名前が載ってるはず!そう思い手帳を開くネーア。

 しかしそのページを開いた矢先、明らかにおかしい部分が真っ先に目に飛び込んでくる。


「……そんな……は?……嘘だろ……?」


 他の場所にも目を向けるが、個人情報が書かれたそのページは、クラスなど他の情報には全く異常が見受けられない。

 その一点、ピンポイントにそこだけに異変が起こっていた。


 ――名前の欄だけが、空白の状態になっていた。



挿絵(By みてみん)


「そんな……なんで……!?」


「たぶん、それも召喚魔法の副作用なのさ。戻ればきっと元に戻るのさ」


 変わらず他人行儀な反応を見せるメリィに対し、ネーアは怒りを抑えられなかった。

 メリィの胴体を掴み、その白い団子の様な顔をぐっと近づけ、ふつふつと湧き上がってくる怒りの感情を言葉に変える


「多分!? きっと!? 適当なことぬかすなよ!!! 自分が何やってるか理解してるのか!!??」


 このまま何も思い出せなくなって、心まで女になってしまったらどうする!?

 お前にこの責任が取れるのか!?

 不安と不満をありったけ込めた言葉をメリィにぶつけた。

 するとメリィは少しは事態を理解したのか涙を浮かべ、萎縮しながらこう続ける。


「グスン……わかってるのさ…だから、協力するって言ってるのさ……まずは、オイラの町にくるのさ――グスン」

 

 言い終えた後、メリィはそのまま声をあげて泣いてしまった。

 間違ったことは何も言っていないはずなのに、どこか後ろめたい気持ちにさせてくれる。

 これじゃあまるで――。

 

「……まるでボクが悪いことしたみたいじゃないか。……あーもう、わかったから!泣き止んで、ね?」


「グスン。うん…ごめんなさあ」


 泣き止んだメリィの頭をなでながら、ネーアは大きなため息をつく。

 そしてこのままじっとしていても仕方がないので、メリィが泣きながら言っていたことに突っ込んでいくことにした。


「その、メリィの町っていうのはどこにあるの?」


「あ、うん……えっと、こっちだよさ―――うわああっ」


 ――ぽよん!!


 メリィが町へ案内しようとその方向へ振り向くと、ぐにーっと弾力のある何かに吸い込まれていってしまう。

 メリィの反応からして、異常事態なのは間違いない……しかしメリィを吸い込んでいるなにかは完全に擬態しているのか透明で、その姿は全く見てとれない。


「め、メリィ!!!」


 その後間もなくして、てゅぽんっ!! という効果音と共にメリィは完全に姿を消してしまった。


「な、何がどうなって……あーもう!」


 このままメリィがいなくなってしまえば、ネーアは路頭に迷うことになってしまう。

 仕方ないと覚悟を決め、てメリィが消えた方向に手を突っ込んだ。

 すると言わずもがな、同じようにすぼすぼと、ネーアの手がその何かの中へと消えていく。

 ゼリー状のような何かに吸い込まれていく手を必死に動かし、どこかにいるであろうメリィを手探りで探す。

 ――すると


『くるしぃ……くるしぃよう』

「――!?」


 何かの声が、ネーアの頭の中に直接語り掛けてきた。

 しかしここは平原、消えてしまったメリィを除けば、見渡す限りに人の姿は見当たらない。

 ……となれば、このゼリー状のものと関係が?


「だ……だれかいるのか……!?」

『あう……あああ……うごかさニャいで』


 声は、ネーアの手の動きに合わせて語り掛けてきているようだった。

 しかしそう言われてもそれどころではない。引き続きメリィを探してぐりぐりと手を動かしていると、視界に半透明の青いものが現れ始める。

 どうやらその《青いもの》に、ネーアはがっつり手を突っ込んでいるようだった。

 見るとネーアの手よりもっと奥の方で、メリィも青いものの中で白目をむきながらふわふわと漂っている。


「なん……か、ゲームで見覚えがある見た目してんなあ……この青いヤツ。……ボクが知ってるのと大分違う気がするんだけど」


 その視界をふさぐ(一応先は見えるが)巨大な青いものの正体――それは、めちゃクソでかいスライムだった。

 他には何も見えないことからして、声の正体もコイツだったらしい。


「スライムかあ……この手……抜けるのかなあ……―――うおあっ!?」


『うごかさニャいでっていってるでしょおおおおおおおおお!!!!!』


 その叫び声と共に、スライムの中にぐいぐいと吸い込まれていくネーア。

 抵抗しようにもスライムの吸引力が強く、耳に響いてくる声も相まって全く持って歯が立たない。


「こ、声デカ――いっ!…頭…………が……」


 ギンギンと頭の中に叫び声が響く。

 次第に身体全体から力が抜けていき、抵抗する力もなくなってしまう。


「あ……ダメ………だ…もう、意識が―――!」


 ――ガクン。

 その声にネーアは気を失うと同時に、ついにスライムに飲み込まれてしまった。


『――あれ?あれれ?』


 しかしどういう訳か、頭の中では声が響き続ける。

 気絶しているので体は一切動かない……にもかかわらず、なぜか意識ははっきりとしているような不思議な感覚。


『だ、だいじょーぶかニャ?にゃあも何が起こってるのか……ニャニャニャ?にゃあは何でこんなぷよぷよしてるのニャ!?』


(うん、それはあなたがスライムで、今ボクらを飲み込んでいるのです。)


『スライム!スライムってなんニャ?』


(あれ、聞こえてるんだ……? 不思議……)


 念話……というやつだろうか?

 体は動かないし前も目を瞑っているので見えない。

 しかし確かに会話は成立している……本当に不思議なことがあるもんだ。ここが異世界であることを実感する。

 ……しかしなんだ、まるで猫みたいな喋り方をするスライムだな。


『お互い大変なんだニャあ。にゃあも、何か気が付いたら人間の家からこんなとこにきてたのニャ』


(おやおや、それは奇遇……――――!?)


 いやいや、それはさすがにありえないだろう。

 ……話のいきさつからして、ボクと一緒にこの世界に来たってことになるではないか。

 生きたスライムなんて向こうの世界にいるわけないし、召喚時一緒にいたヤツならボクと融合……


『急に黙り込んでどうしたの〝ニャ〟?もっとお話ししたいの〝ニャ〟』


 ……猫みたいな……喋り方…………いや、まさか。

 あり得るのか? そんなこと?


(……お前、あの時一緒にいた猫か!?)


『ニャ?にゃあが猫なのは当たり前なのニャ。ででで、スライムってなんニャ?』


 ……猫らしい。


(スライムって言うのは今のお前の身体のこと。その半透明のドロドロをスライムって言うの)


『ニャ!このぷにぷにドロドロしたのがスライムかニャ!なんか面白いニャ~』


 でも、一体どうして?

 あの時の猫はボクの体と融合した……と、メリィが言っていた。まあ、言ってることが信用できるかは全く持って疑わしいのだが。

 でも猫はスライムになって確かにここにいる。

 考えられるとすれば、体だけが融合し、残った魂がこの世界で独自に身体を持った……とか、そんな感じになるのだろうか。

 本当に何が一体……というかそれよりも今、この手も足も出ない状況で、これからボクらはどうなってしまうのか……。


『ニャニャニャ。ニャんか体がムズムズするのニャ?草がおっきくなってくのニャあ~。よくわからニャいけど不思議がいっぱいで楽しいニャ~!これはどういうk』




 ―――それを境に、ぷっつりと猫だったスライムとの会話が途切れた。






「おい、こんなとこに裸の女が倒れてんぞ!?」




 そして次にネーアが気が付いた時、それは見知らぬ天井だった。






 つづく

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