15話 『災禍の渦と勇者の伝承』★
―前回までのあらすじ―
宿に泊まった。
===[メフィル城] 城門===
「メルオン・ラウルスティン殿ですね、お話は伺っております。こちらへどうぞ」
「ああ。よろしく頼むよ」
入城手続きを済ませると、門番兵に連れられて3人は城の中に入る。
「お……おお………!!」
「お?その反応。さては嬢ちゃん城の中は初めてか」
「いえ、はい……!ボクの故郷では造りも違いますから。すごく新鮮です」
興奮しすぎて声が漏れてしまった。
白を基調とした外見とは一変、黄金色の豪華な装飾や赤絨毯が巡るその様は別世界。
本当に漫画やアニメの世界に入ったかのようであった。
不審者のごとく辺りを舐めまわすように見ながら歩いていくと、早くも目的の場所にたどり着いたようで門番兵がその大きな扉の前で敬礼と共に声を上げる。
「メルオン・ラウルスティン殿御一行をお連れしました!」
王座の間へと続く扉が二つに割れ、その姿をあらわにする。
そのまま中へと案内した後、門番兵は再び敬礼をしてから持ち場に戻っていった。
国王ルーダス四世を前にメルオンとメリィが跪く。
それを見て慌ててネーアも跪くが、ルーダスは一瞬クスッとして言う。
「楽にしていいよ。これでも堅苦しいのは苦手でね」
「はっ……お心遣い、感謝いたします。申し遅れました、私はメルオン・ラウルスティン。こちらは相棒のメリィ、そして彼女がネーア。神官殿………いえ、先々代国王ルーダス二世殿の命の元、ここに参上いたしました」
「…ん?今なんて……?」
言い終わると同時にメルオンは顔を上げ、彼が口にしたことに驚きの色を隠せないネーアが目の前の彼を見つめる。
そしてそんなことはお構いなしに、ルーダスはパチンと手を叩くと中にいた数人の衛兵を外に出し、ネーア達含めた4人の〝関係者のみ〟を中に残した。
「さて、早速だけど本題に入らせてもらうよ。グルッド、頼む」
「はっ!……と、メルオン以外には名乗っておく必要があるな。私はグルッド・プランソン、大国騎士団団長にしてメルオン・ラウルスティンの第2の親友だ」
(第2なんだ……)
グルッドの自己紹介にネーアは心の中でそっと言った。
苦笑いしながらそれを思っていたネーアを、グルッドはちらっとだけ見て続ける。
「先日……今から約一週間前のことだ。我々騎士団はグレン荒野にて、伝承に伝わる〝世界の果て〟と呼ばれるものではないかと思われる黒い渦を発見した。君たちを呼んだのはほかでもない、ミネルバの町に発生したという世界の果ての関係者だからだ。そして君…」
グルッドはそう言いながらネーアを指さす。
ネーアは耳と尻尾をビクッとさせて自身を指さすと、グルッドは頷いて続ける。
「君には少し聞きたいこと、そして試してもらいたいことがある。後で同行してくれ……では」
次はルーダスに目配せをするグルッド。
ルーダスは彼の方を見て頷いた。
するとグルッドは王座の間の奥、部屋の右上に位置する扉を開く。
そして禁断の書物であふれかえった小さな部屋には、ローブ姿の老人が胡坐をかいて座っていた。
「……お願いしても、よろしいですかな」
老人は鼻を鳴らして立ち上がる。
「フン……全く人遣いの荒い国になったもんじゃな。まあよい、待っておったのだからの」
老人はローブのフードを脱ぎながら王座に座るルーダスから見て左前、グルッドの隣に立ってネーアたちに目を配る。
「神官ど……いえ、ルーダス二世殿。どうしてそのようなところに……」
メルオンが少しばかり驚きながらローブの老人――神官に問う。
「いつも通りでいいわい。わしがやらかしたせいで世話かけたの。すまんが事のいきさつはまた後で聞いてくれ………でじゃ、先の説明通りグレン荒野に世界の果てが現れた。このことはおぬしたちも竜雲の一件で知っていると思う。本当はこの目で確かめたかったのじゃがの……まあ、何はともあれ少し当てがあっての。この城である禁書を探しておったのじゃ」
「禁書……ですと?」
眉を顰めるメルオンに、神官は頷いて返す。
「ウム。禁書の名は《災禍の渦と勇者の伝承》。一言で言えば終焉の日に近いものがあるの。大昔……何時の史かさえも解らぬ、この大国王家にのみ伝わる話じゃ」
「ラグナロク………」
神官は続いてその伝承について語り始める。
曰く 魔王を討伐せしめんとしたその勇者は、〝とある者〟によって召喚された異界の人であった。
異界の勇者は見事魔王を討伐し、その召喚の任を果たす………が、元の世界へ帰る方法を知らなかった勇者は路頭に迷い、怒り狂った。
召喚主を殺し、勇を煽った国民を殺し、王族を殺し、国を滅ぼした。
その後も勇者は血みどろの旅を続け、とうとう世界の果てまで彷徨いたどり着いたところで、一つの渦を見つけたという。
「それってこの前言ってた……」
そのどす黒い渦に手を伸ばした勇者は、二度とその世界に戻ることはなかった。
そして同時に、世に災禍の時代が訪れた。
天変地異が起き、多くの死者が出た。その中心には、いつも一つの影があった。
その影はかつての勇者の面影があった。しかしそこに魂はなく、ただただ破壊の限りを尽くす異形の者になり果てていたのだという。
〝魔王〟となった勇者は、土くれの悪魔《魔人》を生み出し世に混沌をもたらした。
「そ、そんなのって……」
「言ってることがこの前と違うさ!この前神官さんは若者は帰ったっていったさ!」
ネーアは目を丸くして冷や汗を伝らせ、メリィが神官の話に反発した。
神官はメリィに目を向け、頷いてからまあ待てと言ったそぶりを見せる。
「ウム、確かにその通りじゃ。若者………勇者は元の世界に帰ったのだろう、魂だけはな。世界の果てはその者の欲を叶える。若者は旅と共に絶望を重ね、世界を壊すほどの恨み……欲を持ってしまったのじゃろう。存在の本質……魂以外のすべてを対価に捧げられる程のな。言ったであろう、これは語られぬ歴史だと」
メリィにそう返すと、神官はまた話を続けた。
魔王あるところに勇者あり。勇者あるところにまた魔王あり。
願いの先に絶望を見たその魔王は、また別の勇者の手によって屠られた。
以来、その勇者は国を築き、これを王家にのみ伝う伝承として一冊の本にまとめた。
曰く、術者と欲望の渦は一対にあらず。その願いの数だけ、渦の災禍は訪れる。
曰く、願いの数だけその者は存在を削られる。
曰く、渦の中には何者か《管理者》がいる。
曰く、渦から戻った者は、その存在を代償に《異形の力》を得る。
曰く、渦を消す方法は召喚されし者が中に入るか、その者を滅することのみである。
「曰く、次に召喚されし者が現れた時、王族は此れを即刻滅するべし。……と、まあ大まかにはこんなところじゃな」
神官はネーアに睨むように視線を向け、彼女の反応を見る。
ネーアは頭がついていかないのか、ただただ茫然と神官を見ていた。
神官は杖を床に叩き、竜雲を呼ぶと、その杖から出てきたミニオン竜雲が神官のだした指に停まる。
「なに心配せんでいい、こやつの恩もあるのでな。今はおぬしを殺そうとは思わんよ・・・じゃがもしもの時は覚悟しておけということじゃ」
神官がネーアたちを諭そうと付け加え、次の話に持っていこうというときだった。
―――バタン!!
勢いよく王座の間の扉が開かれ、一人の人間が入ってくる。
彼はネーアの後ろまではいより、耳もとにそっと囁いた。
「ウマそーなやつ、ミーィッケたぁ♪」
つづく