12話 『ミネルバの町 そして』
―前回までのあらすじ―
ドラゴン君がメ〇キドのゴ〇レム的なアレになった。
「ネーア!ご主人朝だよさ!!起きるのさ―!」
「へーい……」
「ん……あと5分……」
「ご主人が起きなきゃ進まないのさ!早く起きるのさー!!」
ドラゴンがミネルバの町に来てから一週間が経った。
あれからボクはメルオンさんの家にお世話になることになり、一緒に暮らしている。
――というのも、神官さんによれば役割を果たす前に召喚主と離れすぎると、反逆とみなされてボクの体がどうなるか解らないとかなんとか……末恐ろしいことをしてくれたものだ。
とまあそれはさておき、今日は改めてメルオンさんが町を案内してくれるということなのだが……彼は寝起きが悪いので中々起きてこない。
「ふぁあ……おはよ、スマ」
『ニャ~、にゃあはまだまだおねむニャあ』
「はいはいごゆっくり。透明になっとくの忘れるなよ」
スマはあの後、ドラゴンがいたその足元に当たるところから、何もなかったかのようにネーアの頭の上へ戻ってきた。そしてそれ以来スマは力の使い方を覚えたようで、外に出る時はトラブル防止のため透明になってもらうことが多くなった。
後に神官さんから聞いた話によると、元々スライムに物理攻撃は効かないらしく、潰されたからと言って命にかかわることはまずないらしい。
それをすっかり忘れてたメルオンさんは「冒険者失格だ!!」と、自分の早とちりをかなり恥ずかしそうにしていた。
問題としてスマが溶かしてしまった部分はどうしているかというと、既にそれなりに復興の兆しが見えてきていた。
元々大半が空き地になっており、そこで貿易が行われていたため損害こそ出たものの、暴れたのは貿易商や行商人くらいで住人は神官さんが責任を取ると言うとすぐに納得したようだった。
その神官さんは今、何やら大国に用事があるとかで町を留守にしている。
1時間ほどたった後、ようやくメルオンも起きて準備を始めた。
「ご主人おそいよさ、もうご飯さめてるさー」
「あースマンスマン!急ぐから待っててくれー」
そんでもってこの一週間でわかった意外なことなのだが、この家の家事全般はメリィがほとんどこなしており、手料理はかなりの腕前だった。
一足早く朝食を済ませたボクたちは、先に外へ出て待っていることにした。
「そういえばメリィ、ボクあれからまだ聞いてないんだけど」
「へ?何がさー?」
ふと思い出したことを悪戯顔で口にしてみる。
「ほら、世界の果ての一件の時の謝罪」
「あ!そうだったさ!!ごめんなさー!!!」
大事なことのハズなのにメリィもすっかり忘れていたらしく、忘れていたことに対してなのかこれが謝罪のつもりなのか……とりあえずおっかなびっくりに頭を下げる。
その姿を見たネーアは思わず吹き出してしまった。
「ふっ……ははははは!冗談冗談、もう気にしてないよ。ボクだって同意してこっち来ちゃったんだからさ、勿論すぐにでも帰りたいのは山々だけどお相子だよ。な!」
「ネーア……」
――バタン。
少ししんみりした空気になったところで、空気をぶち壊すようにメルオンが外に出てきた。
「いやースマンな!今日こそは早起きするつもりだったんだが」
「メルオンさん、そう言ってるうちは一生無理ですよ?」
ネーアは笑いながらメルオンにそう返す。
「む、そうか・・・?まあ、行くとしよう!随分待たせてしまったな」
「はい、お願いします!」
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改めて町に出てみると、この町は人間の比率こそ多いものの、中には耳がとがっている者やネーアと同じ半人半獣のいわゆる《亜人族》もそこそこいた。
町並みはレンガや大理石がふんだんに使われており、貿易町なだけあって経済の豊かさがありありと伝わってくるようだった。
「ここだ」
まず案内されたのは、ネーアの装備を仕立てた町一番の仕立て屋[かわのや]。
ここはオーダーメイド専門となっており、店内はそのサンプル品が綺麗に飾られている。
「おーい、遅くなったなレレン。来たぞー」
メルオンのその声を聞いて、店の奥から一人の女性が出てくる。
そのスタイルグンバツなレレンと言う女性は、メルオンにぐいぐい寄っていき体を押し付ける。
「遅かったわねメル。ま、わかってたけどまた寝坊したんでしょ?」
「わ!悪かったって!離れろよぶつぞ!!」
「はーいはいわかってますよーだ。で、その娘がこの前の?」
レレンはメルオンから離れると、ネーアの方を指さしてそう言った。
「ああそうだ。こいつはレレン。いくつか依頼人の特徴を教えるだけでそいつにピッタリのものを仕立てる天才だ」
「ネ、ネーアです……先日はどうも……ありがとうございます」
スカート以外は。と心の中でつぶやくネーア。
レレンは無言でネーアの目の前に立つと、超真剣な顔で問いかけた。
「ねえ、その耳と尻尾、触っていい!?」
「へっ!?えっは、はあ?」
思いもよらぬ質問に度肝を抜かれるネーアをよそに、レレンは答えを待つ間もなくネーアに襲い掛かる。
「もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふあ~~しふくうううううう!」
「ひゃあっ!ちょっと!くすぐった……あ…いひッ!」
「ネーア、レレンに気に入られちゃったのさ」
「はははは……な、なんかすまねえ」
耳と尻尾をモフモフされまくるネーアを見て同情する二人。
しばらくそのやり取りが続いたのち、満足したレレンは3人の前に立ち直る。
「いやーいいもの触らせてもらったよー!女の子の人獣は貴重だからねえ!!このモフモフ感がたまらんのだ!」
「メルオンさん……ボク帰っていいですか………」
元気いっぱい!という様子のレレンに対してネーアはかなりゲッソリしてしまう。
メルオンは同情の顔をみせてネーアの肩を叩いた。
「まあまあそう言うな、悪い奴じゃないんだ……この癖以外はな……時にレレン、ひとつ頼みたいんだがいいか」
「んー?いいよなんでも言って。モフモフのお礼にお代はタダにしたげる」
「そ、そんなに気にいったのか………?まあ、これを見てくれ。特徴は大体書いてある通りだ」
レレンはその紙切れを受け取ると、しばらく眺めた後にすこし悩ましい顔を見せる。
「いいけど、ちょっと複雑だね。しばらく時間もらうけどいいかな」
「おう、できたら連絡くれれば来れる時に取り来るわ」
「はいよ、んじゃ期待して待ってること!」
そうして三人は[かわのや]を後にすると、その後は何事もなく町の各施設を一通り案内する。
道具屋[せかいじゅ] 酒場[ぶぎうぎ] 防具屋[めいるず] 宿屋[いぬぬ]など、店の名前はちょっとアレなものが多かったが、貿易町なだけあってネーアのようなよそ者でも住民は優しく丁寧に案内をしてくれた。
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「どうだ嬢ちゃん、町には馴染めそうかい」
「馴染む、か……そうですね、みなさんいい人そうで、その辺は大丈夫です」
「そいつはよかった!しかし、早速だがしばらく町を離れることになるな」
メルオンは懐から一つの親書を取り出して言う。
「神官殿が外に出ているのは知ってるだろう。グレン荒野の北・・・彼の大国[ルネレディア]に黒い渦を見たという情報が入ってきたんだ。神官殿はその調査に出ているそうなんだが、数日前にこの親書と共に伝令があってな。オレたちにも来てほしいとのことだ」
「この一週間でそんなことが……いつ出発ですか?」
「できれば明日には出たいところだな、いけそうか?」
「はい、大丈夫です!」
「よし、じゃあ帰って準備しないとな」
そうして三人は家路につく。
先に待ち受けるものなど想像することもせずに。
===[ルネレディア]王都メフィル 城内:王座の間===
「さて……今日もたのむよ」
「ええ、よろこんで」
国王ルーダス四世に、大国騎士団長グルッド・プランソンが続く。
国王は少し深めに王座に腰掛けると目を閉じ、グルッドがその前に立つ。
そして―――
ウキウキ顔の国王に対して、グルッドは剣を抜いた。
つづく