1話 『プロローグ―異世界でネコミミはじめました』★
2017/10/03 全体を大幅改稿しました。
――ファンタジー世界に行って世界を救ってみたい。
ちょっと夢見がちな男の子なら、誰でも一度は考え憧れることだろう。
だがいくらファンタジーとはいえ、現実のものになれば理不尽は当然のようについてくる。
「ねえ、召喚受けといてなんだけどちょっといい?」
ああ、やっぱり3次元はクソだ。
「なんだよさ、もったいぶらずに早く言うのさ」
少しでも浮気したボクが馬鹿だった!嫁たちよ、今会いに行くからな!!
「おうち帰りたい」
「あ、それは無理だよさ」
やっぱり2次元は3次元に出てきちゃいけないんだよ、うん。
そんなことの始まりは、ボクのちょっとした中二心から―。
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――約10分前
「……これ……でっと」
何の変哲もない、一般的な6畳間……しかし今日は一味違う。
ボクはとある部活帰りの日曜日、自分の部屋全体を使って超本格的な魔法陣を描いていた。
自分なりに色々考えて描いてみた異世界召喚用の魔法陣だ。
「最近は萌えアニメばっか観てたけど、やっぱり男の子としては憧れるよねー……剣と魔法のファンタジー世界」
特に何か意味があるわけではないのだが、無性に魔法陣が描きたい気分だった。
強いて言えば明日から始まるテストの現実逃避。
「ま、そんなことあるわけないんだけどさ」
もちろん、何かが起こる……本当に何か異世界から召喚できたりなどとは考えていない。
中二病を患っていた時期もあったりしたが、それはもう昔の話だ。
「そこ、右側の上列左から4番目。そこはその文字じゃないよさ」
「え、マジ?……て、誰!?」
突然聞きなれない声がボクの耳をつく。
何事かと思い辺りを見回してみるが誰もいない……気のせいだろうか。
「ここだよ、ここ」
「――!!」
やっぱり気のせいではない。
声と一緒にガラスをガンガンとたたく音がした。
どうやら声の主は窓の外らしいが……ここは二階だぞ!?
恐る恐る窓の方へと顔を向けてみると、そこには一匹の猫がたたずんでいた。
「いやいやまさか……そんなわけ」
猫がしゃべるわけないしな……。
やっぱり気のせいか……こんな思いつきで魔法陣なんか描いたりするし、疲れてるのかもしれないな。
きっとそうに違いない――自分にそう言い聞かせる。
――でもちょっと気になるので、言われた部分の文字を修正してみた。
「あ、ホントだ……この文法だとここはこれ……うわァ!?」
魔法陣を修正した途端、眩い光を放ち始める。
ボクはまさかの出来事に腰を抜かしてしまうが、口を開かない猫は、頭の中に直接語りかけてくるように続けた。
「さあ!あとは君の承認だけだよさ!君の言う剣と魔法のファンタジー世界、来るか来ないかさ!」
そう言いながら、猫はとうとう窓を勢いよくぶち破り、ボクの元までやって来る。
そんなことあり得るわけがない……やっぱり疲れているんだ。
今見えいる光景も、聞こえる声も、きっと全部幻で……。
―――でも。
「ほ、本当に行けるの?」
ボクのその問いかけに、猫は黙って頷いた。
幼いころ……ゲームやアニメで散々見た、夢の世界。
本当に行けるのなら―――。
本気でそれを思った瞬間、幼い日に思い描いた妄想が次々とフラッシュバックしてきた。
あの冒険が
あのワクワクが
あのファンタジーの世界が――――本当に現実になるのなら!
――ゴクリ。
どうせこの世界に生きていてもボクの嫁たちとは添い遂げられない。
きっと平凡に生きて平凡に死ぬだけだ。
だったらいっそ、こういうものもアリなのかもしれない。
例えこれが幻だとしても……ボクはこの目で、そんな世界を見てみたい。
「……行くよ、ボクは勇者になりたい」
「ほい来た!いくよおおおおおおおおお!!!」
辺りがより一層輝きを増していく。
次第に身体がエレベータに揺られるような感覚に襲われた。
魂が、身体が、世界をまたいで――――――!!!
「……ここは…………!!!」
そうして1分もすると、そこは既に見慣れない平原になっていた。
「ようこそフォグラードへ!改めて自己紹介するさ!オイラはメリィ。君を召喚した愛らしいマスコットさ!」
先ほどまで猫が発していた声で、その何とも言えない、白い団子みたいなちっさい生物が名乗りだす。
「ほ……ほんとに…!ホントに異世界に来たんだ」
が、ボクはそれどころではない。
念のために辺りを見回してみるが、本当に平原。先ほどまで自分がいた世界のものなど微塵もない。
本当に知らない世界が、目の前に広がっていた。
「ボクは本当に……――本当に?」
違和感を感じた。
何故だろう、ボクが発している声……なんだか異常に高い気がする。
「どうしたのさ?どこか悪いのさ?」
メリィが心配そうに見つめてくる。
気のせいならいいのだけれど……一応聞いておこう。
「ねえ、メリィ。ボクの体……〝何か変〟じゃない?」
その質問にメリィは首を傾げ、背中の小さな羽をぱたつかせてボクの周りを一周して見せる。
再びボクの目の前に戻ってきた後、自信満々に胸を張って――言い放った。
「そう?全然変じゃないのさ!可愛い〝ネコミミ娘〟なのさ!!」
「…………ハァッ!!!???」
なんだって!?
ボクが……ネコミミ娘!?
すぐさま確認するように頭の上に手を向かわせる。
……メリィが言った通りだった。
人間のあるべき耳は消え失せており、代わりにふさふさのケモミミが頭に生えている。
黒髪短髪だった髪の毛もキャラメル色に変色していて、しかも腰まで伸びきっている。そのすぐ下からは、不思議な感覚だが尻尾も生えていた。
……そしてやはり―――。
――モミ
「…………」
――モミモミ
「………………」
――モミモミモミ
「……………………ある」
そう、ある。
身に覚えのないふくらみが2つ、一般的な男だったらまずありえない……しかし女性には備わっているそれが、ボクの胸にくっついている。
認めたくない現実を確かめるかの如く、ボクは慌てて片手を股下へ持っていく。
「…………ない…………!」
今まで生を共にしてきたムスコは、きれいさっぱり消え失せていた。
ああ、これは完全にメリィの言う通り……ネコミミ娘で間違いない……。
しかもよく見ると性別と共に体格が変わって身長も少し低くなったらしく、着ているYシャツのサイズも合っていないではないか。
変わってしまった自身の体を、ボクは涙を流しそうになりながら噛みしめる。
しかしメリィはボクの心情などお構いなしに、あっけらかんとしながら言った。
「多分一緒に陣にいた猫と融合しちゃったんだねー、こんな副作用があるなんてオイラも知らなかったさ!」
「……知らなかったさじゃない……これ、元に戻るんだろうな!?」
その質問にメリィは少し考え込んでから自信なさげに答えようと口を開く。
「うーん、多分元の世界に戻れば元の猫と人間に戻るのさ……多分」
「そう…なのか……ねえ、召喚受けといてなんだけどちょっといい?」
ああ、結局理不尽に振り回される。
やっぱり3次元はクソだ。
「なんだよさ、もったいぶらずに早く言うのさ」
少しでも浮気したボクが馬鹿だった!嫁たちよ、今会いに行くからな!!
「おうち帰りたい」
「あ、それは無理だよさ」
やっぱり2次元は3次元に出てきちゃいけないんだよ、うん。
「なんで!!!」
「オイラは召喚は出来てもあっちに送るのはできないのさー」
「そんな無責任な……!!」
そりゃあ召喚に乗ったボクにも少なからず非はあるかもしれないけどさ!
こんなことになっておいて元の世界には戻せませんはひどいだろう!!!
ああ、こいつの頭を掴んでどこかへ放り投げてやりたい!
「でも、戻れる方法はあるといえばあるのさ」
……その一言で、その感情をなんとか抑える。
「そ、その方法は……!!」
「世界の果てに向こうへ通じるワープホールがあるらしいのさ!そこを目指すといいのさ!」
「世界の果て……いかにもな感じで響きはいいけど、それって具体的にどこに!?」
「さあ、オイラは知らないのさ」
――――ガシッ。
ボクはメリィを鷲掴みにして、勢いよく、天高く、どこまでも飛んでけと念じて放り投げた。
これは、ちょっとした事故が起こした冒険譚。
ホームシックな少女の、おうちに帰りたい大冒険。
つづく
お読みいただきありがとうございます。
この作品は僕の性癖をふんだんに盛り込んだものになるかもしれませんしそうはならないかもしれません。
ひとつ言うとすればTSFは大好きですけどケモミミはそこまででもないです。
皆様の感想やご意見、こうした方がいいよ!ということがありましたら、どしどしと送っていただけるとありがたいです。
では最後になりますが、今後ともおうちに帰りたいうちの子をよろしくお願いします。