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転生女神のおやつ係  作者: あきよし全一
5/8

5 転生女神のおやつ係

「ど、どうしてそれを……」

「分かるわよ、神様ですもの。やる気になれば少年の記憶ぐらい検索できます」


 女神は「えっへん」と胸を張るが、僕は内心ヒヤヒヤしていた。今の言葉は直球すぎて、あやうく少年の心をデッドボールするところだった。

 少年の反応をうかがう。大丈夫、僕たちから目をそらしていない。僕は話をまとめに入った。


「つまり、女神様の力を使っても、少年の望むポプテック・ワールドに行くことは不可能だ。だって、それは少年の心の中にしか無いんだから。外側に出したら、それは同じ味付けの違うものになってしまう」

「唐揚げから衣をはがした時みたいに?」


 そうだ、と僕はうなずいた。


「でも、ポプテック・ワールドは少年の中に存在する。だから自分に自信を持って、女神様の提案を考えてみたらどうかな?」

「提案って……」

「異世界に転生する話よ。現代日本から離れて暮らすの」


 それを聞いた途端、少年は下を向いてしまった。やはり不安なのだろうか?


「僕が聞いた限り、悪い話ではないと思う。ご飯も食べさせてもらえない日本の暮らしより、違う暮らしを選ぶわけだから」

「で、でも待って! ポプテック・ワールドの続きが読めなくなっちゃう!」

「そ、そう来たか……」

「大丈夫! そこは私の出番なのよ。少年には必要なものが手に入る、魔法のカバンを上げちゃうわ」

「え!?」


 少年が目を丸くした。


「そんなもの、もらっていいんですか?」

「ただし! 必要なものしか手に入らないからね。いつか小川あぶくが必要なくなったら、別の本を手に取ること。分かった?」


 少年は、両手をバタバタさせながら僕たちの周りを走り回った。あまりの好条件に、どうしていいか分からなくなったのだろう。しかし、やがて決心が固まってくると「お願いします」と深く頭を下げた。


 転生勇者が一人、誕生した瞬間だった。


「なかなかやるじゃない」


 少年が異世界に旅立ったのを見届けると、女神様は関心したようにうなずいた。


「あの説得力、気に入ったわ。キミ、これから定期的に召喚するから」

「え」


 僕は思わず顔をしかめる。今日はもうクタクタなのに、また同じような目に()わされるのは勘弁して欲しかった。

 ここで反論しておかないとマズい!


「どうして呼ぶ必要があるんですか。今まで一人でやってきたんでしょ?」

「どうしてぇ? んーと、私のおやつ係とか?」

「は?」


 女神様はニヤニヤしながら、僕の肩を叩いた。


「そうね、それがいいわ。ごちそうさま。次もおいしい料理、期待してるわよ」


「ええええええ!?」

「うるさい!」


 叫んで起き上がると、見慣れた自宅のキッチンだった。またしてもテーブルに突っ伏して眠っていたらしい。

 目の前にはプリプリ怒った母さんがいた。


「ちょっと! もう真っ暗なのに、夕飯の準備できてないじゃない!」

「あっ」


 なんてことだ。時計を見ると、もう19時を回っていた。

 母さんは空っぽのご飯茶碗を指して怒鳴りまくる。


「しかも自分だけ、たぬき丼を食べて! 私のご飯は無いってわけ!?」

「えっ!? あっ、これは違うんだ……」

「いいです。母さんは一人で回転ずし行ってくるから、好きなだけ唐揚げの衣を食べててちょうだい」

「違うんだ母さん、これには事情があって! あのアホ女神、おぼえてろよぉ!」


 クリスマスの夜に、僕はいい歳こいてマジ泣きした。これが女神様との出会いだった。

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