早乙女くんのクラスには女子が二人いる
「皆も知る通り、我が校は創立以来の伝統を打ち破り共学高校となったわけだが、女子は二人しか入学してこなかった。
その二人を離ればなれにしては心細かろうし何かと問題が起こるかもしれん」
そこでだ、と担任桑元は言葉を潜める。
「厳正な審査の結果、二人とも我が一年C組が確保いたしました! 誉めろお前ら」
やったー!おにゃのこー!
くわせん流石ー!男前ー!!
いいから早く見せろー!
やんややんやとヤジが飛ぶ。
くわせんこと桑元先生はえへんと勿体ぶった咳を一つすると、二人とも入っていいぞ、と教室の外にいるであろう女子生徒に促した。
「鈴鹿やよいです」
「風祭 涼子」
一人は文句なしに可愛い女の子だ。
ふわふわの猫っ毛を緩めの三つ編みで二つのお下げにしていて、守ってやりたく乗るような雰囲気の女の子だ。
もう一人はキリッとした眉を潜めてこちらを見定めているようだ。ショートカットでボーイッシュな雰囲気だが、出るところは出ている。
どちらも甲乙つけがたいな。
そんな考えを持っていると、風祭の方が一歩前に出て宣言した。
「やよいは僕のお姫様だから手を出そうなんて思わないこと。いいね!」
それと、と呆気に取られたくわせんから教簿を取り上げると、
「そこの女顔の早乙女哲也、あと明らかに草食系な亀梨瑞季、君達は僕達と共に行動したまえ」
名簿に目を通しつつあいうえお順に並んだ俺達二人を名指しでボデイーガード(という名のていのいい男避けだろう)に指名しやがった。
くわせんもまあ、そういうのがあった方がいいか、と了承しちまうし。
心の中で厄日だ、と呟く女顔の方早乙女哲也でしたと。
「お前も災難だな亀梨」
席替えもさせられて教室の隅に陣取った俺達は二人のガールズトークを背中に男同士の親睦を深める。
亀梨はパッと見身長190はあるもやし男というあだ名が付きそうな冴えない男だ。
顔も濃くないし、俺といい亀梨といい、男を意識させないような奴をあの場で直ぐ様見抜くとは風祭、恐ろしい子!
「ぼ、僕はラッキーかな。あんまり目立つのは嫌だけど、二人とも可愛いしごにょごにょ」
お前、やよいちゃんは分かるけれども風祭もありなのか。一方的に俺らを盾に決めた女だぞ。
あと、お前の身長で目立つなっていうのは無理だと思う。
そんなこんなで奇妙な四人組の学校生活が始まった。
風祭とやよいちゃんはガチらしく、教室で俺らを盾に二人でイチャイチャしている。
ここなら一般の感覚のやつらに邪魔され無いだろうと受験したらしい。
思春期の男の子舐めんなよ!百合も美味しいです。ありがとうございます!
変わってほしい?
やだね!
亀梨は顔を真っ赤にして見ないふりを決め込んでいる。やっぱ草食系というかへたれだなと思ったが、タッパがある分俺より壁としては役に立っているのかもしれん。
そんな日々を壊したのは意外にも亀梨だった。
「早乙女くん、好きです!付き合って下さい!」
これである。
まあ?こんな女顔のせいで小中と男子から告白はされなれてる俺ですが?
一応相棒っつーか友達からされたのは初めてな訳でありまして、
「お、おう、ありがとな」
と返すのがやっとだったわけであります。
おい!OKした訳じゃねぇぞ!百合夫婦のとこ報告に行くな!馬鹿野郎!
で、空き教室に引っ張り込んだのだが、あれ?これ俺ヤバくない?貞操の危機ってやつじゃない?
亀梨は俺の手首をそっとつかむと自らの胸元に導いて、やめろ俺はそんな趣味はないもにゅこんな顔でももにゅノーマルなんだだからごめんもにゅなさいもにゅ、なんだか両手が柔らかいものに触れてるぞ?
百面相を終えた俺は自らの手を見上げる。(悪かったな背も小さい俺は亀梨の胸元は頭上なんだよ)
って亀梨胸あるんだけどもにゅもにゅ
「あ、あああ、あの、さ、早乙女君、確認のためさ、さささ触ってもらったけど、そういうのは、まだ、その、心の準備が、えっと」
「このケダモノが!」
スパーンと後頭部をハリセンで叩かれた。
この声は風祭か!
で、かくかくしかじか
くわせんが大元の元凶だった。
当初、今年度入学の女子生徒は三人だったのだが、職員室に挨拶に行ったら
「なんだ新入生、女子生徒が居ないか見に来たのか?そんなナヨナヨしてても男だなぁ。お前で十人目だぞその理由で職員室に来たの。ほら、教室に帰った帰った」
と追い返され、くわせんも一人は辞めたかと勘違い。後日誤解を解くも、まあ公言せんでも四人固まってるなら大丈夫だろ!とそのままにした。
「じゃあなに、お前女なわけ」
こくん
「あー、確かに体育の時居なかったもんな。もやしだからサボりかと思ってた」
こくん
「あの、もう揉まないのでこの縄ほどいてもらえますか風祭様」
仕方ないわね、と縄はあっさり外された。
「風祭とやよいちゃんは知ってたのか?」
「当たり前でしょう!体育とか一緒に受けてたのだから」
「早乙女くん、全然気付かないんだもん。こっちがやきもきしてたのしらないでしょう?今日だって二人で焚き付けてやっと、なんだよ」
「え、なに?そんな前からお前俺のこと?」
こくん
キャパシティーオーバーなのか亀梨は俯いて微かに頷くばかりで、全然顔が見えない。
が、耳は真っ赤なのでこちらから攻めてみることにする。
「さっきはさ、驚いて曖昧な返事しちまったけど、俺も、その、お前のこと嫌いじゃない。
だけど、俺やっと今お前のこと女だって気付いたわけだし、そんな俺でいいのか?」
こくん
カツカツとわざと大きな音を立てて近づいても逃げない。
今度は俺が男がちゃんとリードしないとな!
「今度の日曜日、デートすっぞ」
ガバッと顔をあげた亀梨は、頬を真っ赤に染めて目を見開いて、なんだよく見りゃちゃんと女じゃんと思った。
「では、ダブルデートですね」
「隣町の遊園地にしよう。楽しみだな」
何を勝手にとツッコミを入れる暇もなく風祭とやよいちゃんは二人の世界に入ってしまった。
「じゃ、そういうことで」
「は、はい!よろしくおねがいします!」
早乙女くんのクラスには三人目の女子がいる。
でもそれを知っているのはまだごくわずかな人達だけである。