大蛇
「だーー、何階あるのかな…」
「疲れてきましたか?」
「体力的には元気モリモリだけど、いつまで続くのかなと。金目のものはほとんど取れてないし。精神的に参ってしまうね」
「ちょっと先行投資過ぎたかな?と反省してる面もあります」
「ルゥに任せすぎただけだし良いよ。大体今回はミルが最大のお手柄だったし」
《ええ魔法打ってただけだよ》
「いやいやそれが誰にでも出来る事じゃないから」
「ちょっとやる気が落ちてきてるサトルにモチベーション回復のため話しておきますね。私も空回りになる部分があるとは思っていました。何故情報が中々集まらなかったか?と言うと当然美味しい場所なら人に無料で教えようと思わないでしょ。だからここがある程度外れなんだろうなと思っていました。ただダンジョン攻略だけを考えるならこういうダンジョンの方が狙い目です。一つだけ気がかりだったのは、私達ぐらいのパーティなら上位階層のパーティで居るはずです。彼らが何故シティを動かずにダンジョン攻略をし無いのか?は謎でした。これに関しては謎のまま残っています。それでも一応私の計画通り進んでいます」
「ルゥがミスを隠すための言い訳なんてしないから信じてるよ」
「それでも真意としては、シティでのダンジョンに長く費やすなら、最初のうちに効率の良い武器を手に入れたほうが良いです」
「そこだよなルゥは何か先見て行動してるよな。僕はその効果を目の前で見ないとピンと来ないからルゥの事は信じてるけど、たまにぼやきぐらいは出てしまうと思っておいてー」
「はい」
次の日3階に挑む。そこで僕達にとっては2つの驚きが合った。部屋が狭くて、扉が見えている。要するにここが最深部だった。しかしこの狭い部屋一杯に白い大蛇が横たわっていた。まさに逃げ場の無い狭い部屋を多い尽くすように横たわるそれはヨルムンガンド。つかーこれどうやって飯食って生きてるんだ?この辺りさっぱりダンジョンは分からない。不意をつかれた形になったが、こういう戦いはルゥの得意分野。僕とミルは扉に向かって走り始めた。へへーん。あそこをあけてしまえばゲーム終了って知ってるからな。しかし、その見通しは甘かった。すぐに扉にはついたが、扉は開かない。ある程度は想定していた。3階のフロアモンスターを倒さないと開かないんじゃないか?要するにこれは宝を守るラスボスだ。考えてみると最初のダンジョンもルゥが巨人を倒していた。
ただ戦闘は困難だった。ルゥはむしろ2階の天狗より楽に戦っていた。スペースに余裕が無いと言うのが距離をとるミルにとって戦いにくかった。僕が前面に立ってミルを尻尾の攻撃から守っていた。ルゥが頭を僕らが尻尾と分けて戦った。部屋が狭くてなるべく距離をとろうとするとこんな形になってしまっていた。はっきり言ってただのミルの盾だった…。切ってるつもりだったけど、頭と尻尾どっちがより激しく動くか?と言えば尻尾…。何故そっちにルゥが付かなかったのだ?ただ逆にミルにはこれ好都合だった。反応が早く動きの早いルゥならこの動きも捉えられるだろう。しかしまとめて全部攻撃しちゃってミルの攻撃は絶対だった。僕は尻尾が不用意にミルを責めないようにするための小さな針みたいなものだった。どうやって捕らえてるのか?ってそりゃ当然出鱈目だった。ぶるんぶるん尻尾を振り回していれば当たる。だからこそ僕の小さな針は効果的だった。つぼの中に手を突っ込んでちくっとしたら気をつけるだろう?ってあれと同じ。完全に無視はないけど、暴れん坊とばかりに勝手気ままに振り回した尻尾は僕が切ってやった。もっと上手く入ってきたら多分胴体から切り離されていたと思う。本当にこの”剣”すごいわ。
例えば包丁でキャベツを切るとする。包丁の先端までしかキャベツが切れないのは物理的に当たり前。その当たり前がこの剣は通用し無い。大げさだけど、剣の先まで切ってしまう恐ろしい剣。僕の慎重より大きな蛇の尻尾の直径を切ってしまってもおかしくないほど深く切り込んでいた。ただあくまでこれは僕らを舐めていたからで、それからは警戒したのかそんなクリーンヒットは無かった。ただそれが逆に尻尾に邪魔されなかったミルの攻撃を効果的にしていた。もしかして僕とミルってすごく良いコンビかも。ただこれがルゥなら動いてる尻尾そのものを攻撃してしまうから恐ろしい。僕はいくら剣の効果があると言ってもただの人間だから。正確に言えばクリーンヒットしてない。端っこちょろっと切っただけなのにこの剣だから深手の傷を負っただけだから。
ただ長期戦になるかな?と思っていたら、ルゥがすげーうっとしいはずだけど、僕らの方に頭を向けた。僕は覚悟をした。尻尾全体を使って叩かれると完全に切り刻まないとおそらく僕は体格差がそのまま出て吹っ飛ばされる。それはミルも同様に。正直言えば怖かった。でも僕はこの剣に全幅の信頼を置いていた。逆にチャンスだと思って覚悟を決めたんだ。それまでの散漫な攻撃からはっきりと向かってくる太い尻尾を一刀両断した。のたうちまわる大蛇から僕らは距離をとった。尻尾がなくなった分まるまるそこはセーフゾーンになった。そこからミルの余裕が出来たので魔法攻撃の猛攻。後はルゥの巨人を倒した時の戦闘スタイルによって決着が付いた。この大蛇一つだけ欠点があるとすると、ミルの攻撃に全くルゥが巻き込まれないだけの大きさがあったことだった。二人が思い切り広範囲に攻撃してても全くぶつかる事が無かった。でも僕も頑張ったよねって一人僕は自己満足に浸ってたけど。敢えて言うなら剣がかな…。




