Do you need chance?
「話ってなんだぁ? 小林さんよ」
「ヒッ…い、いや、実はだね、御宅との取り引きは無しに…」
「あんだとォ!? 舐めてんのか!? あぁ!」
俺の名前は伊坂 悠人。
今日俺は、仕事でとある廃工場に来ていた。
仕事ってのは、さっきからビビりまくってる小物の麻薬密売人、小林を、目の前のチンピラ3人組から守る、言わばボディーガードってヤツだ。
さっきからクソでかい声で恫喝しているチンピラのリーダー、リーゼントとかいう古臭い髪型の彼は、煮え切らない態度の小林にご立腹のようだ。
「あんまふざけたこと言ってとよぉー、バラして沈めんぞ?」
そう言って、リーゼント君はナイフを懐から出して、刃先を舐めた。
まさに三流チンピラって感じだ。
しかし、それを見てビビった小林は、俺の背中に隠れるように後ろに下がった。
「おい、ちっと小林に痛い目見せてやれ」
短気なリーゼント君は、手下1と2に命令した。
ジリジリと距離を詰め、更にナイフを懐から取り出そうとする2人組。
ナイフってのは厄介だ。
というわけで懐に手を突っ込んだままの、手下1を前蹴りで吹き飛ばす。
次いで、ナイフを抜いて突っ込んできた手下2を横に一歩ずれて交わし、すれ違いざまに男の急所目掛けてひざ蹴りを叩き込む。
「オイオイ、やるじゃねぇの。クソガキ」
手下2人組が一瞬でやられたのをみた、リーゼント君が、ご自慢のナイフを持って近ずいてくる。
「死ねオラァ!」
大振りでナイフを振り回すリーゼント君。
一振り目を交わし、よろめいたリーゼントの顔の急所、鼻と口の間に突きを入れた。
「あんたらが弱過ぎんだよクソジジイ」
倒れるリーゼントに向かって、さっきの言葉への返答をした。
「お、おぉ! 凄いじゃないか! 」
近くのドラム缶の陰に隠れていた小林が、ひょっこり現れて、感嘆の言葉を述べた。
「俺の専属ボディーガードに…」
「ならない。金」
小林のオファーをにべもなく断り、報酬を要求する。
「あ、あぁ」
小林は懐から封筒を取り出すと俺に手渡した。
中身は、きっちり50万入っていた。
「確かに。あぁ、そうそう、追手が来る前にさっさと逃げたほうがいいぜ」
しっかりと忠告までする俺はボディーガードの鑑だな。
「わ、分かった」
そう言うと小林はそそくさと走り去っていった。
「さて、俺も帰るか」
俺は廃工場を後にした。
ーーーーーーーーーーーーー
俺は墓にいた。
俺の目の前にある墓には伊坂 京香と刻まれている。
彼女は、たった2人しかいない俺の肉親の1人で、自慢の姉貴だった。
なんせ身内贔屓を差っ引いても、文武両道、容姿端麗と完璧で、友人も多かった。
何より名義だけの親戚に代わり、高校を中退してまでバイトをし、俺たちを養った。
だが、2年前、姉貴は射殺された。
その報らせを聞いた時は信じられなかった。
犯人は未だ捕まっていない。
何故、姉貴が殺されなければいけなかったのか。
そう思うと、思わず拳に力が入る。
「やぁ、伊坂君」
不意に後ろから声をかけられ、驚きながら振り向くと、そこには、黒いワンピースを着た銀髪の少女が立っていた。
「誰だお前は? 何故名前を知っている?」
「まぁまぁ、落ち着いて」
少女は微笑みながら、矢継ぎ早に問う俺を制止した。
「私の名前は、うーんそうだなぁ…あ、プルートって呼んでよ。神様やってまーす!」
「は?」
意味不明な返事に思わず、変な声が出てしまった。
「うーん、その反応は寂しいなぁ。本当に神様なんだよ!」
少女は頬を膨らませながらそう言った。
「なぁ、遊びたいなら公園に…「お姉ちゃんにまた会いたくない?」」
俺のセリフに被せるように放たれた言葉は衝撃的で、俺は咄嗟に思考が停止した。
その様子に満足そうな少女は、にっこりと笑った。
「ね? どぉ?」
「…お前なぁ、あんまりふざけた事ばっか言ってんなよ」
大人気ないとは、思いながらも少女の言葉に怒りを覚える。
「大抵、皆そんな反応するんだよ」
少女は俺の怒りを全く意に介さず、満面の笑みを浮かべると、
「私の力、見せてあげるよ」
そう言うと、少女は指を鳴らした。
その瞬間、周りの風景が一変し、
「な…!?」
屋外の墓地にいたはずが、いつの間にか何もない真っ白な部屋にいた。
「どぉ? 凄いでしょ。 これで分かった?」
少女の得意げな顔をまじまじと見つめる。
俺は夢でも見ているのか?
「夢じゃない。 あのね、君にチャンスをあげたいんだ」
「チャンス?」
「そう、チャンス。世の中には理不尽な事や不幸な事が多いよね? それで人は悲しんだり、落ち込んだりする。
どんなに頑張っても報われないなんて、つまらないじゃないか。
誰にだってチャンスはあるべきだ。
そこで! 私、神様がチャンスをあげちゃうってワケ!」
ぶっちゃけこの意味不明な状況で、何を語られても、理解なんてものは出来そうにない。
だが、だけれども、もし本当に姉貴を生き返らせられるなら、
「本当に姉貴を生き返らせられるのか?」
「もちろん。ただし、試練は受けてもらうよ? あくまでチャンスだからね。
試練は怪我をしたり、死んだりする。
その代わり、君が欲しいものを幾らでもあげちゃう。
永遠の命? 巨万の富? はたまたすんごい特殊能力だったり。君の場合はお姉ちゃんを生き返らせられる」
「………」
「さぁ、どうする。このまま姉を失ったまま、生き続けるか? それとも死ぬまで戦い続けるか?」
死ぬまでって事は、一度、試練を受けたなら、ずっと戦い続けなければいけないのだろう。
それでも、
「やる、やらせてくれ」
「うん! やっぱり強い意志を持つ人間はいいね! それじゃあ、今日、夜の12時に迎えに来るよ!」
そう言うと、少女は再び指を鳴らした。
景色は変わり、見慣れた俺の住むアパートの前になっていた。
「これはオマケ。じゃあね!」
そう言うと、少女は煙のように消えた。
今、思い返せば、あのプルートとか言う少女への返事は、軽率だったかもしれない。
だが、姉貴を生き返らせられるなら、何だってやってやる。
そう決意を固め、俺は自宅に向かって歩き出した。