閑話:ここ掘れワンワン 31話
31話は閑話としました。
相棒が真っ黒になって帰ってくる。
ベッドで生活するようになり、今日で1週間がたった。
朝食をいつも通り一緒に食べると、そそくさといなくなり、日が暮れて夕飯の時間になると帰ってくる。その後は朝まで側にいてベッドの横で一緒に眠る。また翌朝の朝食を食べるとでかける。
きっと、俺が動けない分炭鉱で他の人にかまってもらってるのだろう。頭がいいから仕事の邪魔はしないだろうから大丈夫だろう。
たとえ体が回復しても、俺はしばらくの間炭鉱に入ることができない。すぐに濃厚な魔素に体が反応して倒れるからだ。
最後にもう一度は、5年間籠った炭鉱に入って別れの挨拶をしたいとは思っているが、こればかりは仕方がない。
今朝はいろんなイベントがあったが、相棒が居なくて良かった。いたらあのおっさんは間違いなく咬み付かれていただろう。さすがにオオカミの顎は丈夫なので、そのまま咬み千切られてもおかしくは無い。
サヤーニャ腕を切り落とされていたが、反対の腕まで咬み千切られたら生活に支障が出るだろう。
あのおっさんの事だから、どこかの医者にいって、再生刻印で回復をするのだろう。かなりの高値だが、俺の知った事じゃない。
サヤーニャは冒険者ランクSで刻印屋って言ってたから、彼女がぼったくる可能性も否定できないな。自分で怪我させて自分で治す。安定の稼ぎだな。
そんな他愛もない事を考えていると、ドアの外からトトタットトタッっと心地よい足音が聞こえる。
「今開けるからちょっと待って~。バディちゃん脚が早いよ~」
看護婦の声が廊下の奥の方から聞こえる。俺の代わりに相棒の相手をしていただき、ありがとうございます。
トントントン
律儀にノックすると
「失礼します。」
と部屋に入ってきた。
相棒は横で尻尾を振りながらベッドの上に飛び乗った。
「わふ。」
気の抜けた声で吠えると、咥えていた物を渡してくれた。
これは!?
「この1週間ずっと炭鉱に籠って、崩れた土砂を掘っていたらしいですよ。」
あの時土砂に埋もれた、世界に1本だけの俺の得物。
「さすがだ俺の相棒!!」
親方達の選んだ素材の所為か、はたまた刻みこまれた刻印の所為か、つるはしにはヒビ1つ見当たらない、
「これで、思い残すことは何もないな。」
バディに抱きつき、全身を丁寧に撫でてやった。泥がベッドの上に落ちるが知った事じゃない。
炭鉱に別れの挨拶に行きたかった理由の一つが、長年付き合ったツルハシとの決別だったので、それをする必要もなくなった。
後は、全身の痛みが無くなりさえすれば、いつでも旅立てる。