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目的の鉱石 18話・20話~23話

18話・20話~23話

 炭鉱奴隷を選んだのは理由がある。


 僕が抱えた借金を、真面目に勤めあげたら20年で返済ができるからだ。否、最長で20年で出れるように、父が奴隷雇用してくれた。


 借金は金貨30枚に対し、月の給料が銀貨20枚。返済は16年と半分で終わるところだが、利息分を入れるときっかり20年になる。


 通常の借金であればこんな長期にわたった場合は更に同じだけの返済期限が伸びるだろう。かなり破格の待遇である。


 それに加えて、発掘した鉱石の中に希少金属(レアメタル)が含まれていた場合は色をつけて手当てを弾んでもらえるようにも計らってもらえた。

 運を味方につければ、借金返済期日を減らすことができるのだ。


 こんな契約ができたのは、働く鉱山が父の領地内ということがある。つまり、父の管理する鉱山、いずれは僕が管理する領地だ。

 奴隷として働くが、労働者の立場で物事を考える視点を身につけることもできるし、領民の考え方も理解できるようになる。


 20年という今までの人生の倍の時間を、鉱山という過酷な環境で過ごさなくてはならない。しかし、その経験は何事にも勝ると理解していた。


 母は、最後まで僕達の契約に反対した。しかし、父は僕の選択を尊守してくれた。


「ダーシャ。君の選択を僕は理解し、応援するよ。でも、つらくなったらいつでも言ってほしい。君はたった一人の僕たちの子どもなんだからね。」


 旅立ちの日、父はそう言うと、僕のおでこにキスをくれた。母も僕にキスをし、バディのお腹を名残惜しそうに撫でていた。」


「しかし、父上。バディを連れて行っても本当にいいんですか?。」


 バディを同行しなさいと父から言われたのは昨夜のことだった。てっきり僕は家に置いていくつもりだったので、母に世話を頼みこんでいたのだ。勿論母は即決で了承してくれたのは言うまでもない。

 そのバディが僕と同行すると聞いて、母はこの世の地獄に落ちたかの形相をしていた。

「最愛の息子が2人も同時に旅立つのはさみしいけど、ダーシャも一人じゃ寂しいもんね。バディちゃん、くれぐれも変なもの食べたりしちゃだめよ。」


 母の最愛の息子は、間違いなくバディな気がすると思いながら、2人ともいなくなることを申しわけなく感じた僕は、背中から抱きつき、行ってきますと告げた。


「ダーシャ、分かっていると思うが、この馬車に乗った時から、君の名前は剥奪される。借金をすべて返済した時、君は1人の市民として開放される。それまでどんなことがあっても貴族の矜持だけは忘れず、自分に恥じない生き方をしてほしい。」


「はい、父上。いえ、ご主人さま。これより長期に渡りよろしくお願いします。」


 こうして、家族と決別し馬車に乗り込んだ僕は、バディを抱きしめ、声を押し殺して泣いた。





 なぜ僕がこんな目に会わなきゃいけないのか。


    -僕は悪くない-


 勝手に仕事を受けた奴が悪いんじゃないのか。


    -自分の利益だけを考えた奴が悪い-


 仕事を放り出した奴が悪いんじゃないのか。


    -自分の保身を考えた奴が悪い-


 逃げ出して責任を放棄した奴が悪いんじゃないか。


    -責任を放棄した奴が他人に迷惑をかける-


 寂しさと悔しさが同時に胸を締め付ける。


    -誰か助けて-


 両親の前では笑顔でいれただろうか。


 せめて母様の前で泣いたら、きっと苦しめる。


 それだけはしたくなかった。


 いつも笑顔で天真爛漫な母のそんな顔を見たら、僕はきっと潰れてしまう。


 1日でも早く帰れる様にがんばる、僕は家族の笑顔に賭けて誓った。

 



 馬車で揺られること1ヶ月。ようやく炭鉱の町(クバハ)にたどり着いた。


 僕はすべての甘えを捨て去った。



「坊主、お前はこれを使え。」


 現場監督らしい、髭もじゃのおっさんが1本のツルハシをくれた。


「生憎と、うちの現場にゃ子供サイズってのがこれしかないからな。大事に使えよ。」


 髭もじゃの顔はなんだか嬉しそうだ。きっと子供が好きなのだろう。そう思いながらもらったツルハシを見ると、そこには見慣れた仕事がしてあった。


「えっ、髭もじゃ! このツルハシって!?」


「誰が髭もじゃだ!?」


 文句を言いながらも、僕の反応をみて満足したようだ。ニヤリとした笑顔は、黒ずんだ肌とマッチし、どこから見ても獲物を見つけた瞬間の山賊に見える。


「笑い顔が怖いって言われませんか?」


ガッハッハと笑いながら続ける。


「ゴルビーに頼まれたんだよ。お前の事をよろしくってな。あいつに認められた奴がこんな所に来た理由は知らねえが、あいつの頼みだ。何かあったら言ってきな。俺の名前はユーリーってんだ。よろしくな。」


 これが、僕と髭もじゃ(ユーリー)の出会いだった。


「名前とのギャップがすごいですね。」


 しまった、思ったまま口に出してしまった。


「口の減らねぇ坊主だな。」


 僕の頭をぐりぐり撫でると髭もじゃ(ユーリー)は着いて来いと僕を連れまわした。


「野郎ども! 良く聞け!!」


 広場に連れてこられた僕は、全員の目にさらされる事になった。


「この坊主は、鉱山奴隷としてここに連れてこられた! しかし! お前らも普段世話になってる、ゴルビーが目にかけてる坊主でもある! 下手な事したら何があっても俺は知らないからそのつもりでな!」


「おう!まかせろ!!」


 広場でくつろいでいた男達は「乾杯ザ・ワーレ・ズダローヴィエ!」と酒瓶を片手に掲げ僕を歓迎してくれた。


「それとだ、そこに居るオオカミだが、この坊主の相棒だ。つまみ代わり食おうとしたら、オオカミの飯になるだろうから気をつけろ。」


 相棒(バディ)の事まできちんと紹介し、髭もじゃ(ユーリー)は僕の部屋に案内してくれた。


「坊主、お前さんがここに来たいきさつは、ゴルビーに大体聞いた。自分の身の保身を考えず行動した子供は馬鹿だとさえ思った。しかし、あいつ・・・いやあいつらは、お前に感謝していた。普通の奴にはできないすげえ奴だって言ってた。


 あいつらというのが、鍛冶屋の親父(ゴルビー)木工屋の親方(ザンギエフ)と言うのは容易に想像できた。

 故郷の事を思い出した僕の目には、枯らしたはずの涙が浮かんできた。


「鉱山奴隷としてここに来たお前は、知っての通り名前を奪われた。取り戻すためには規定年数働くか、希少金属(レアメタル)を見つけて特別手当をもらって期間を減らすかのどちらかしかない。坊主、まずは規定年数働く事を念頭にやれ。無理して体を壊したら元も子もないからな。」


 また、頭をわしゃわしゃ撫でると、食堂など施設の案内をしながら、いろんな人に僕を紹介してくれた。


 こうして僕の1日が終わった。ベットの上で相棒(バディ)を抱きしめ、親方達のプレゼントを見ながら、僕は夢の世界に落ちていった。






「坊主・・・ おい! 坊主 起きろ!!」


「うぅーん・・・。 髭もじゃ。 もうちょっと静かにして。」


「誰が髭もじゃだ!」


 耳元で喚かれ、仕方がなく目を開ける。


「あれ、ここは・・・。」


「おいおい、しっかりしろよ。お前は炭鉱から救い出されて、医務室に運ばれたんだだよ。」


 白衣を着た男 ―名前は知らないが、たぶん医者― がこっちを覗きこんでいる。


「ほら、これが何本に見える?」


 指を差し出し、それに答える。そうこうしている内に入口の向こうから地響きがこっちに向かってきた。


「坊主!! 目が覚めたった本当か!!?」


 暑苦しくて、声のでかい、同室のおっさんが飛び込んできた。


「髭もじゃ・・・。」


 その声は髭もじゃで間違いなかった。しかしその頬はこけていて、まるで人が変わったかの様に憔悴していた。


「ごめん・・・髭もじゃ。心配かけた。そんなやつれるほど、俺、寝込んでた?」


 髭もじゃの目には涙が浮かんでいた。


「いや、君が生き埋めになってからは5時間。ここに運び込まれてからは1時間だ。さらに言うと、監督は痩せてなんていないよ。」


「誰が髭もじゃだ。懐かしい呼び方しやがって。お前がもじゃもじゃ言うから切ったのはもう何年も前の話だ。」


 そう言うと、元髭もじゃ(ユーリー)は俺にスープを注いでくれた。空っぽの胃袋に流れ込む熱い液体が、俺の意識を覚醒させていく。


「えっと。今はどんな状況になっているか、教えてもらってもいいかな?」


「あぁ、任せろ。まずは崩落が起きた所から話そうかな。」


 自分用に注いだスープを飲みながら元髭もじゃ(ユーリー)はじっくりと説明を始めた。


「だが、その前の一つ言わせてくれ。」


 いきなり脱線か。だがいい。心配かけたのは俺なので文句を言えない。


「おめでとう、ダーリヤ・ダニイル・グリエフ卿。あなたの借金はすべて返済された。」


 悪戯が成功させた顔でにっこり笑う元髭もじゃ(ユーリー)は、相変わらず獲物を見つけた山賊の顔に見えた。




 寝起きで働いていないのか、それとも元髭もじゃ(ユーリー)一流の冗談なのかの区別ができない。


医師先生(ヴラーチ)、すいません。元髭もじゃ(ユーリー)が言ってる事が理解できません。きっと落盤に巻き込まれて頭部損傷してる可能性があるともいます。元髭もじゃ(ユーリー)の精密検査をしてあげてください。」


 元髭もじゃ(ユーリー)一流の冗談と判断した俺は、瞬断を挟まず医師先生(ヴラーチ)元髭もじゃ(ユーリー)の治療を申し入れた。


「おい、こら、坊主!! 冗談じゃないんだぞ。」


 いやまて、そんな簡単にあの借金(金貨30枚)が消えるわけがない。


「いや、元髭もじゃ(ユーリー)、冗談じゃないのは分かる。ここまで強情だと嫌みのレベルだ。」


 炭鉱で落盤に巻き込まれて借金(金貨30枚)が消えるのなら、誰だって巻き込まれるだろう。


「だから、違うんだっていってんだろう!。お前は掘りあてたんだよ。あの、くそったれな、『月の滴』を!!」


 『月の滴』の名がでて、俺の頭は一瞬白くなった。それこそ、俺が炭鉱奴隷になると決めた目的であり、借金を帳消しする可能性を秘めた宝石の一つだった。


「ほ・・・本当なのか?」


 目的達成の嬉しさと、疑いの半々で最終確認をとる。


「あぁ、今はバディが見張ってくれてるよ。」


医師先生(ヴラーチ)。本当ですか。」


 念の為、更に確認を挟む。


「えぇ。貴方が見つかってから、その話題でもちきりですよ。」


 自由の身になった喜びが、体中に歓喜の感情を爆発させた。


元髭もじゃ(ユーリー)。どうやら本当みたいだ。やったよ。俺、やったんだよ!」


 元髭もじゃ(ユーリー)に抱きつき、俺は大声で叫んだ。


「これで、あの、くそったれな魔法具を強化できるぞ!!」


「いや、普通は奴隷解放を喜ぶところだろ。」


 呆れ顔の元髭もじゃ(ユーリー)だが、俺が此処を借金返済の場に選んだ理由を知っているので、ニタニタした目でこっちを見ている。いや、やっぱり山賊顔だよな。


「さっそく見てくるよ。」


 ベットから飛びあがろうとした俺の前身に激痛が走る。


「ほら、まだ無理ですよ。」


 医師先生(ヴラーチ)の支えで、ベットに横たえられた。


「あぁ、畜生! せっかく自由になれたのに、しばらくは療養暮らしか。」


「無理はしないでください。貴方は『月の滴』の魔素をまともに浴び、適合してしまったのです。通常の適合者(ザラジェーニエ)は、動けるようになるのに1週間はかかると聞いています。」


 焦る俺を見透かすように、医師先生(ヴラーチ)は俺をたしなめた。


「そうだぞ。発見だけじゃなく、適合者(ザラジェーニエ)になったんだから、焦ることはないだろう。」


 確かにそれは仕方がない。しかし、採掘した『月の滴』はともかく相棒(バディ)の様子も気になる。


「動けないのは理解したよ。でも、バディが気になるんだ。こっちに連れてきてもらってもいいか?」


 俺の懇願に元髭もじゃ(ユーリー)は「任せろ。」と言い残すと、医務室を後にした。


 俺は目を瞑り、これからの行動計画を頭の中で修正しながら眠りについてしまった。




「ダーシャ。ダーシャ。」


 遠くの方で僕を呼ぶ声が聞こえる。せっかく気持ちよく寝たのに誰だろ。

 しかし、知ってる声な記憶がある。


 目を開くとそこは森の中、湖の畔で父が僕を呼んでいる。


 夢か・・・。と直感的に理解した。

 今日の落盤事故で家族の事を思い出したから、また出てきたに違いない。夢の中でも寂しがり屋な父だなとクスリと笑った。


 湖の上を滑るように飛んできた父は僕の頭を撫でてこう告げた。


「いいかい、ダーシャ。君はこれから大変な旅に出ることになる。しかし、君は多くの人からの愛に包まれ、助けられていくだろう。僕の予見では『君という存在に対し複数の光が君を包み、襲いかかるどんよりとした靄』までしかわからない。きっと碌なことではないだろう。しかし、包んでくれる光の幕が全てを払ってくれるから、その人たちに恥ずかしくない生き方をしなさい。」


 久しぶりに夢に出てきた父は、最後に見たときよりも少し白髪が増えた気がした。

 こんなところでも冷静に父に加齢を重ねさせる自分を、冷静に情報分析ができていると感じながら、もうすぐ会える他の家族に思いを馳せた。


 そうこうしている内に僕の意識は覚醒した。



―チチチ…


 鳥の声で目を覚ました。外は微妙に薄暗いが、長年の習慣で朝だということを理解していた。ウーンと伸びをすると、体中が悲鳴を上げた。


「そうだった、魔素にやられて1週間はまともに動けなかったんだ。」


 前身の筋肉という筋肉が悲鳴を上げている。昨日より痛みがひどくなってる気がするのは気のせいか。


「わふ!」


 起きた僕に気がついたのか、横で寝ていた相棒(バディ)が飛びついてきた。


「わ、ま、まった、まったバディ。」


 普段通りに飛び乗ってくる相棒(バディ)だが、対応する僕の体はさっきの伸び以上に悲鳴を上げ続けてる。体の中を、小さな小人が叫びながら棍棒で殴りつけてる感覚だ。 僕の様子に気がついたのか、申し訳なさそうに「くぅーん」と鳴いて僕の側に座りなおす。


「ごめんよ、バディ。僕が呼んだのに、一晩放置してしまったね。」


 相棒が横に居る理由を思い出すと、耳の後ろを掻いてあげながら謝罪した。

 『そんなの気にしないよ』とばかりに、目を細め、頭を僕にするつける。いや、バディさん痛いんですけど・・・。


「ありがとな、バディ。お前が助けてくれたんだな。」


 夢の中での父の言葉を思い出し、バディに感謝の言葉を伝える。バディは感謝の言葉に返すように、また顔を擦り付けてくる。これが母なら喜んで撫でまわし『もふもふは正義』というのであろう。どうも昨日から家族の事を思い出して仕方がない。

 夢の中の言葉は、旅立ち前に父が僕にくれた『予知(プリドヴィーディニイ)』だ。

 僕はまだ魔術を習っていないが、うちの血統は『予知(プリドヴィーディニイ)』を使えるらしい。内容は術者の力に依存するようで、父の能力では抽象的なイメージしか出ないらし。

 いずれ僕にも顕現するはずなので、どこまで視えるようになるのか今から楽しみだ。


「バディには随分とお世話になっちゃったね。家に帰ったら、母上にお願いしておいしい物をたくさん用意してもらおうね。」


 母の事だから、言わずとも最高級の一品を用意して待ってくれそうだ。それとも、少しは落ち着いて年相応の対応をしてくれるだろうか・・・? とりとめの無い事に意識を飛ばしながら体が動く日を待つしかなかった。


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