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閑話:残された人々 19話

19話は閑話として独立させました

―屋敷にて―


 リビングの長椅子に深々と腰かけて、これまた深々とため息をつく美しい女性がいた。

「奥様、お心をしっかり持たれてください。」


 侍女は女性の前に、ベルガモットの香りがする紅茶に、いなくなった後継ぎが最後に取ってきた木苺で作ったジャムを添えた。


「えぇ、そうね。あの子が自分で決めた事だし、今更どうしようもできないわよね。」


 それは真実でもあり、覆せることでもあった。夫にかけあえば、金貨30枚位はかろうじて捻出できる。しばらくの間質素な生活を強いられるかもしれないが、それで家が傾く事はない。


 あらかじめ立て替えることも提案はした。しかし、当事者が炭鉱へ行くことを選んだ。夫もそれに賛同した。女性がどれだけ心を痛めてもどうしようもできなかったのだ。


「ダーシャはきっと元気に帰ってきますよ。」


 侍女は侍女で、自分の弟の様な雇い主が居なくなり、寂しさを胸の内に秘めていた。だからと言って、仕事に手を抜くわけにはいかない。


「そうね・・・。ふさぎこんでても仕方ないわよね。」


 女性は目の前に出された紅茶に口をつけ、木苺ジャムを口に入れた。


「こんなときにバディちゃんのもふもふがあったら、多少は心癒されるのに。」


 その言葉を聞き、侍女は後ろからクッションを取りだした。


「奥様、僭越ながら私が勝手に準備させていただいたものですが。この中身はバディちゃんの抜け毛を詰め込んでいます、浄化刻印の上に干して日光消毒してますので、雑菌の繁殖する可能性もありません。」


 本当は女性の誕生日に用意したものだったが、多少早くなる程度で渡すことには変わりがない。


「ナーシャ。あなたって子は・・・。」


 頬に涙で濡らしながら、クッション共々抱きしめた。


「私はこんな素敵な子供たちに囲まれて幸せですわ。」


2人はそのまましばらく抱き合って、声を押し殺して泣いたのだった。






 その夜、侍女は自分用に作った、肉球型のクッションを抱きしめて眠りにつくのであった。





―酒場にて―


 ふたりの街の名士が静かに盃を開けていた。


「おい、ゴルビー。炭鉱(クバハ)の方はちゃんと手を回したんだろうな。」


「ああ、お抱えの仕入れ先に重々に話を通した。」


 仕事柄の取引先に、今度はいる鉱山奴隷の扱いを頼みこんだ。厳しい仕事で有名な鍛冶屋の親父(ゴルビー)が頭を下げることは滅多にない。

 『しかし、あの坊主を守るためなら、こんな頭の一つや二ついくらでも下げてやる』と心を決めている。


 それは、共に盃を開けている木工屋の親方(ザンギエフ)も一緒である。自分が面倒を見ている行商人を何人か捕まえて、炭鉱(クバハ)で苦しむであろう坊主の手助けをしてやりたい。


 炭鉱(クバハ)での道具は間違いなく大人向けの物しか用意されていない。少年の体には不釣り合いなそれを使えば、すぐに体を壊すだろう。

 2人で準備し、軽量化と破壊力増進の刻印をつけたツルハシを1本用意して現地で支給される手はずを取っている。


「やれることは、お互いやりつくしたって所だな。」


「ああ。後は、坊主が返ってくるまで腕を錆びさせないだけだな。」


 こうして2人の親方は酒をその日限りで絶った。その影響で、徒弟達への怒鳴り声が増えたのはご愛嬌と言うものだろう。


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この作品は日刊更新中の「月の滴」をまとめたものです。
日刊は1000~2000文字くらいなので、読み足りないという方の為に纏めています
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