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家族団欒 4話(続き)~8話

4話~8話を収録しています。

「ダーシャ。またそんなに汚して。お洗濯する身にもなってよね。」


 その声にビクリと小さい背中を跳ねさせた。

 姉代わりで女中のマーシャが、ほっぺたをプクーと膨らませてこっちを睨んでいる。


「ごめんね、マーシャ。汚すつもりはなかったんだよ。」


 マーシャの仕事を増やしたことを謝りつつ、彼女の顔色を覗った。


「そうだ、マーシャ。今日、父上が視察から帰ってくるんだ。お土産においしいお菓子を買ってきてくれる約束をしてるから、お詫びに半分にして一緒に食べよう。」


最高の謝罪の気持ちを伝え、大好きな姉に許しを請う。


「いいわよ。そんなに怒ってないから。毎日怒ってもダーシャはちっとも反省してくれないし。それに、ダーシャの洞窟探検は誰にも止めることはできないでしょ?それこそ心酔してる父上に止められても無理なんじゃない?」


 笑いながら許してくれた姉は、さも当然のように明日も服を汚すダーシャを想像していた。


「そんなことないよ。父上が止めたらさすがに止めるさ!!」


 父の言葉に逆らうことは絶対にしない。なぜなら、尊敬してる父の言うことは間違いがないからだ。


「じゃぁ、私が言っても止めないのはなぜなの?」


 意地悪な笑顔を向けられ、二の句が継げなくなってしまった。


「うそうそ。ごめんねダーシャ。あなたが可愛いからついつい意地悪言っちゃったの。」

 直後に抱きしめられ、今日もしてやられた感いっぱいになってしまった。


「マーシャは意地悪だ。」


「ごめんってば。」


2人は見つめ合い、どちらからともなくクスクスと笑いあった。


「それより、ダーシャ。領主様がお戻りになる前に、お迎えの準備するって言ってなかった?」


「もうそんな時間!?いけない、マーシャまたね!!」


 慌てて自室に駆けていった。

 

「もう、ダーシャ。慌てて転ばないのよ。」


 振り向きもせずに走っていく姿を見送りながらも、心配することは忘れないマーシャであった。


 こんな泥だらけの服で父上のお出迎えなどできるわけがない。清潔な子爵家の正装に着替えて準備しなくてはならない。

 全力で走った挙句、当然のように大地にキスをする結果に終わったのだ。




 顔の泥を落とし、正装に着替えた後は、母上と一緒に父上の到着を待つだけだ。

 母上も久しぶりに会うのはうれしそうで、金色の髪をいつもより丁寧に馬の毛のブラシで梳いている。普段つけないイヤリングやネックレッスもしているのは、「大好きな人に会うときは、綺麗な姿で会いたいから。」と前に父上が視察から帰ってくるときに内緒で教えてもらった。


「母上。街道に馬車が見えたよ。きっと父上の馬車だよ!」


 丘の上から一望できる街に唯一つながる道を、土煙を上げて1台の馬車がパカランパカランと軽快に進んでいる。遠目ではっきりとは見えないが、御者はセルゲイで間違いないと思う。なんといってもあの特徴的な髭はこんなに離れたところからでも自己主張を忘れていない。


「あら、もうそんな所まで戻られたのね。急いで用意を済ませなきゃ。」


そう言うと、鏡の前に置いてあるベルを鳴らした。


「マーシャ! マーシャ! あの人がもうすぐ戻ってくるわ。他の子達にも急いで玄関前に並ぶように伝えて頂戴。」


「はい。奥様。かしこまりました。」


 ドアの向こうから返事をすると、気配を廊下の方へと消していった。


パカラン、パカラン、カッポ、カッポ、


「ヒヒィィィィン ブルフゥ」


 この地域ではうちにしかない、2頭立ての馬車が目の前に静止した。父親が視察のためだけに街の職人に作らせた自慢の馬車は広い。家族3人どころか大人8人が座ってお茶をするスペースがあるほどだ。

 夜間でも走れるように用意されているランプは真鍮製。鍛冶屋のエルモと細工師のジョルジョが半年がかりで作った特注品だ。

 馬車前部に2か所。後部に2か所。ドアの上部に2か所と外装だけでなく、社内にはドラゴンと狼の意匠のガラス細工を通して光が洩れるように設計されている。

 窓は透明な板ガラスとステンドグラスの2重構造になっており、当然両方開けることもできる。ステンドグラスにもドラゴンと狼の意匠がつけられている。

 上部前方2か所に添えつけられた旗は、赤地にドラゴンとオオカミの顔がシルエットで交差するように配置されている。その動物のふちどりは金糸で行われており、価値を知らないものが見ても、結構な金額がかかっていることは容易に想像できる。

 目を見張るのは外装だけではない。座席は贅沢にもビロードを惜しげもなく使い、御者席は衝撃吸収にコーディロイを重ねて縫いつけている。


 グリエフ子爵の道楽と口さがない者は陰口を叩いているが、何も見栄の一点でつくったものではない。

 子爵領と確立してから、代々行ってきている職人擁護政策のお礼として、馬車を新調することをどこからか聞きつけた親方達が勝手に作り上げた物だ。


 月の降った夜までは、魔法を使えることをひた隠しにしていた一族。それが彼らのルーツである。

 あの日、ありとあらゆる場所で、混乱と略奪が行われていた。

 ご先祖様はそれまで他人に蔑まされていたが、それでも数少なく良くしてくれた知人の店が略奪されることに怒り、また彼らを守るべく立ち上がった。


 月の魔力は偉大で、それまで作れたろうそくのともし火程の火球は、力を練らずともバスケットボール大になった。夏場に涼を取るため、こっそりコップの中に入れていた氷は、空気中の水分を一気に圧縮し、巨大な氷柱となった。

 そのあまりにも現実離れした空間で、狼藉者は略奪を止められた。


 執事で護衛も兼ねているセルゲイは御者席から降りると、恭しく馬車のドアを開けた。


 しかし、馬車の中には誰もいなかった。視界にあるのは、視察先のお土産と思わしき箱がそこかしこに転がっている。

 だが、目的の父の姿はそこにはない。


「ちょっと、セルゲイ!父上はいないのか?」


 久しぶりに会えることを楽しみにしていた少年は、衝動に駆られ老執事を問いただす。

「はて、先程までは中でゴソゴソと何かされていたのですがねぇ。」


「いいよ。僕が探すから。」


 馬車に飛び乗ると、父上専用座席に手紙が置かれていた。宛先は・・・「ダーシャ

坊やへ」。父上から僕への手紙だ。

 きっと何か緊急の用事が発生して、やむを得ず空間魔法で転移したのだろう。それでも僕のために手紙を書いてくれたんだ。


 そっと封筒を開け、文字を追った。


「親愛なる ダーシャへ 目の前にある座席の箱を開けなさい。」


 書かれていたのは、自分宛の言伝だった。

 きっと、父上が買ってきたお土産に違いない。飛びつかんばかりの勢いで箱を開けた。


「親愛なる ダーシャへ 御者席の下に隠している手紙を見つけなさい。」


 またしても、自分宛の言伝だった。

 これは、もしや父上の身に何か起きた時に、あらかじめ用意されていた秘密の手紙ではないだろうか?


 自分の予想に冷静さを失い、慌てて御者席に隠された手紙を探す。



 その後、馬車の下・トランク・馬車の上と指示は続き、「これが最後だ」と書かれた指令を見つけた時は、探し始めてからゆうに30分を超えていた。

 最後の手紙を見つけ、息を呑んで手紙を開いた。





「は・ず・れ♪」





 その手紙を読んで、ダーシャの頭は真っ白になった。

 まさか、父上がすでに何者かの手にかどわかされた後だったとは・・・。



「おーい。ダーシャ。いい加減に家の中に帰っておいでよー。」


 応接間の窓から父親がしてやったりの顔で呼んでいた。


 父の姿を確認すると、一目散に屋敷の中に駆け込んだ。


 応接間に飛びこむと、父は優雅に紅茶を飲んでいた。スーツ姿に片眼鏡(モノクル)をかけ、シルクハットとマントはまだつけたままだ。正直お行儀がわるい。


「父上、おかえりなさいませ。」


 からかわれた事に気が付きむくれながらも、父に出迎えの挨拶をした。


「ダーシャ、すごいじゃないか。」


 父の返答は意味がわからなかった。30分以上もからかわれた事に気がつかずに手紙を探していたのをネタに、また遊ばれるのかと警戒してしまう。


「だって、あの手紙を全部読めたんだよ。すごいよ。」


どうやら本気で褒めているようだ。


「ダーシャはまだ6歳なんだよ。僕の領地で文字を読める人はそんなに多くない。でもその中では、絶対に最年少だよ。」


 父は手放しで喜んでいる。父に褒められて、嫌々ながらも貴族の義務と思って勉強をした時間が報われた瞬間だ。


「毎日、夜遅くまで頑張った甲斐がありましたね。」


 母も努力を認めてくれた。含んだ言葉に気がつくことはできなかった。まだまだ言外の言に気づかない雇い主をフォローするように、従者はかわいらしくつぶやいた。


「本当は毎朝するって約束してるのに、1日洞窟に籠ってるから夜になるんだよね?」


「マーシャは意地悪だ。」


 内緒にしておきたい痛いところをつかれ、本日2度目の苦情を申し付けた。


「だって、ダーシャが悪いのよ?ちゃんと一番鶏が鳴いたときに目を覚まして、着替えて、顔を洗って、ご飯を食べてすぐにお勉強したらいいのに。」


 息を吸いなおして、更に捲し立てる。


「ダーシャときたら、夜遅くまで勉強してたからもうちょっとって言って、2番鐘が鳴ったころにようやく起きてきたかと思ったら、ご飯を咥えて洞窟にこもって、服をどろどろにするんだから。」


 溜まっていた鬱憤を一気に言い放ち、上機嫌のマーシャ。反対に、父の前で普段の堕落した生活を暴露されこの場を逃げ出したくなった。


『貴族は矜持(プライド)をもった生活を行わなくてはならない』


 それは祖父の代からの口癖であり、グリエフ家の家訓でもある。 


 一度口にした約束を守るのは貴族として当然の義務であり、その義務を果たさないとは矜持を持たないオオカミと一緒であると、小さい頃から口を酸っぱくして言われ続けたことだ。

 オオカミはグリエフ家の紋章にもなっている神聖な生き物だ。片割れのドラゴンの膨大な魔力だけでなく、オオカミの気高さで生きるというご先祖様の意向である。


「なんだって!!ダーシャ!!」


 父は大声で詰め寄った。普段は滅多に怒ることのない父だが、怒るとかなり怖い。いつもの笑顔はオーガの形相になり、にじみ出る魔力が空気を圧迫する。

 


「洞窟って一体どこにあるんだい?」


 全員の予想の斜め上を行く質問をしてきた。





「え…。裏山の大木の裏にあるよ。藪の陰にあるから、大人は見つけにくいのかも。」


 今まで誰に聞かれても「もう行っちゃいけません」と言われた挙句、入口をふさがれるのを恐れて答えてこなかったが、この流れで頭が真っ白になり、正直に入口の場所を教えてしまった。


「それで、深さはどの位あるんだ?奥まで辿りつけたのか?変な生き物はいないのか?」


 矢継ぎ早に質問を投げつける父の目は、子供のようにキラキラと輝いていた。



「あなた、ダーシャを叱ってはくださらないの?」


 妻の言葉はもっともだ。さっきは一応の努力は認めたものの、幼き子供が夜更かしする原因は可能な限り取り除きたい。

 子供の将来を憂いでいる横顔に手を伸ばし、慈しむよう言葉をかけた。


「いや、確かに約束を違えた予定の過ごし方は良くないよ。でも、それを取り戻すために別の時間で補えていて、更に大陸一の理解力で身につけているから今回は大目に見てあげようよ。」


 先程は領地だけだったのだが、大陸一にまで頭の中で進化したようだ。子が父を敬愛するお返しに、父は子を溺愛している。簡単に言うとただの親馬鹿である。


「なにより、『一族の子が自分で洞窟を見つけた場合は、何よりも優先させるべし。』って、初代様の申しつけがあるんだよ。」


 初めて聞く言葉に目を丸くした。貴族の矜持を守るためには、真冬の吹雪の中でも乾布摩擦をする旦那がそれを覆したからだ。

 思えば去年の冬、近年稀にみる大雪に見舞われた。あたりは一面の銀世界で、積雪は3mを超えていた。

 それでも、新年のクリスマスに陽気に飲んだ酒の席で「今年は毎日乾布摩擦するよ」と宣言し、風邪を引きながらも毎朝薄暗い中に外に出て乾布摩擦をしていた。


 人から見ればツマラナイ内容でも『矜持』の守るためには全力を尽くす。そんな旦那が『矜持』よりも優先する『一族の子が自分で洞窟を見つけた場合は、何よりも優先させるべし。』にはどれほどの効力が込められているのか想像したくない。


「でもあなた、ダーシャはまだ5才なのよ。それなのに洞窟を一人で歩くなんてあまりにも危険じゃないですか。」


 当たり前の親心。否、常識で考えれば誰しもが心配する内容である。たとえ5才が成人した大人でも未到達地の洞窟(ダンジョン)を一人で散策しているのは、いざという時に心持たない。


「大丈夫だよ!!一人じゃないから!!僕には相棒(バディ)がいるから。」


 洞窟探検を止められまいと必死に出た言葉は、少年がこれまで誰にも言わず隠していた名前だった。

 しまった!と思った時はすでに遅く、マーシャはニヤリととびきりの笑顔(・・・・・・・)をしていた。


「へー。一人じゃないんだ? 私を差し置いて、一体どこの何方と遊んでるのかしら?」

 マーシャの仕事に洗濯物も含まれている。泥だらけの服には、決まって何かの毛が付いていた。

 何度か正体を暴こうと後をつけたがいつも撒かれてきたのだ。藪だらけの獣道や、細い丸太の橋を渡るなど、お年頃の少女には敷居が高すぎた。何にも増して、支給されている服をそんなことで汚したり破いたりするのが怖かったのだ。

 そもそも、生来のお転婆が、領主宅で働いているのには訳がある。その理由の一つが「女の子らしい可愛い服を支給してもらえる」である。奉公にでるには少し早い少女が親元を離れて働く理由なので、追いかけれなかった彼女を責めるのは酷というものだろう。


「それは興味があるね。」


 気になるものはとことん突き止める。

 好奇心の塊は今まさに新しいターゲットを見つけたのだ。


「ダーシャと同い年で遊べる子供はこの近所にはいない。一番年の近いのがマーシャだけど、そのマーシャも知らないと来ている。」


 推理ごっこは調子を上げてきた。


「ナターシャ君。最近この近所に引っ越してきた家族は子供がいたか覚えているかい?」

 また始まったかとあきらめ、旦那が愛読しているイギリスの探偵物語の助手の様に合の手をいれた。


「いえ、ダニイル先生。最近越してきたパン職人・ガラス職人・細工職人・装飾職人は弟子がいても最年少が18才です。新しい吟遊詩人は酒場に出入りし始めたようですが、昼間は酒場の女給と逢瀬に勤しんでるようです。子どもが居そうな旅芸人はこんな辺境まで自発的に来る予定は無さそうです。」


 最後に厳しい現状を突き付けたが、迷探偵(・・・)にはどこ吹く風である。


「となると、ダーシャ君の証言は、状況証拠から見ると何も裏付けがとれない状態になるわけだね、ナターシャ君。」


 満面の笑みでダーシャを見つめながら状況を確認する。


「えぇ、あなた。その通りよ。」


 自分の役目はこれで終わりと、マーシャに新しい紅茶を目で催促した。


「さぁ、ダーシャ君。いよいよもって不思議な話だ。君の言う相棒に当たる人物はこの街に居ないみたいだよ。よもや、夢の中の友達を言ってるわけではあるまいね?」


 もちろん嘘など言うわけがない。それは父もよくわかっている。しかし、彼の愛読する探偵小説の探偵とおなじセリフをを言うと、どうしてもこの言い回しになってしまうのだ。当時の作者も、こんな迷探偵が後の世に生まれるとは想像もしなかったであろう。


 一方、相棒の事がばれたダーシャは思考の迷路にはまっていた。貴族の矜持に懸けても相棒は存在する。ただ、それを紹介していいものかどうかの判断がつかない。


 相棒は人間ではない。洞窟を探検する前、裏山で弱っているところを発見し、食事を与えて時間をかけてようやく仲良くなったのだ。


 自分の父に見せて怯えないだろうか、いや、父だからこそ見たら迷わず構いたがるだろう。そうすると、おいしい餌を好きなだけ食べ、いずれは父にも懐いてしまうだろう。


 大好きな父に、大好きな相棒を取られるのは、自分が捨てられるような感覚に囚われ、想像しただけで拒否したい。


 しかし、なにも見せずに納得する父でもない。


「わかった、ダーシャ君こうしよう。」


 思考の渦から呼び戻され、笑顔の父は言い放った。


「これから皆で会いに行こう。」


 拒否する権利はダーシャには与えられなかった。


 30分後


「ふっふっふっふふーん」


 上機嫌で好きな節をつけて鼻歌を唄うのは、この領地の領主である。その後ろをテケテケと同じく上機嫌で歩くその妻。


 少し離れて、どうやってこの場から逃げ出せるかとタイミングを覗っているダーシャとその手を引いて歩くマーシャ。どうあがいても逃げ出すことは不可能だ。


 こうなったらどうやって相棒(バディ)を好きになてもらえるように紹介するかを考えた方がよっぽど有意義ということに気が付き、今度はなにも準備をしていないことに思い至りまた渋面をつくっている。


「どんな人だろう?子供じゃないってことは、他の領地から逃げ出してきた傭兵かな。いやいや、頑固一徹なドワーフと洞窟で仲良くなったって線も捨てがたいな。」


 妄想で頭の中がピンク色になって、外にあふれ出している。そんな亭主を少しばかり白い目で見ているが、子供の作った友達はやはり気になる。


「嫌ですよあなた。むさ苦しい傭兵やドワーフはダーシャの友達に似合いませんよ。そうですね・・・。森の片隅に隠れているリスやフェアリーだったらどうしましょ。フェアリーちゃんだったら、あのお人形さんのお服を着せて、着せ替えごっことか楽しいわよね。リスちゃんだったら、この前の税収で納められた胡桃をプレゼントしちゃいましょう。」


 母は母で、やはりピンク色だった・・・。

 一方ダーシャの秘密を暴けるマーシャにとっては、相手が誰だろうと関係なかった。自分にしていた隠し事の内容をようやく暴けるのだ。一時期は気になって夜も眠れなかったのだから、今日というこの日を(かみ)に感謝したいくらいだ。


 四者四様の面持ちで獣道を進んでいく。


「父上、そこを右に曲がってください。」


 幾度目かの藪をくぐりぬけて目的の洞窟に辿りついた。


「へー。こんなところに洞窟があったんだ。」


 思えば、物ごころついた時から街や村に顔を出していた。森の管理はすべて木こりに任せていたので、こんな奥深くまで入ったことはなかった。


「うちから20分。フェアリーちゃんに会うついでにダイエットできるわね。」


 すでに会うのをフェアリーと決めた母は、相棒(バディ)を見たらどんな反応をするのだろう。父やマーシャももう会うのを止めろと言わないだろうか。

 そんな心配をしながらみんなにお願いをした。


「今からバディを呼ぶよ。でもすっごい人見知りだから、みんなの顔をみたら怯えるかもしれないんだ。だから、最初は入り口で待っててね。」


 そう伝えると一人で洞窟の中に入って行った。


「バディ!来たよ。」


 タタッタタッ


 小気味よい足跡で現れたので、1匹の小さなオオカミだった。



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この作品は日刊更新中の「月の滴」をまとめたものです。
日刊は1000~2000文字くらいなので、読み足りないという方の為に纏めています
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