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  作者: 彰弘
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水溜り

 雨が降ると、窪地には水が溜まっていく。普段の生活ではあまり気にもならない窪みも、雨の時ばかりはその存在を強く主張する。そんな水溜り。道を歩く時も、自転車で走る時も、嫌になるものだ。もっと言えば、車がそんな水溜りを通ろうものなら、水をひっかけられる。それが特に嫌になる。

 そんなことを思いながら、私は水溜りを跨いだ。比較的大きな水溜り。雨が降っていなければ気にもならないものが、主張を激しくする。私は悪態を吐きながら、学校へ向かった。

 放課後。雨は止んでいた。空を蔽っていた雲はすっかりどこかへ消え、青空が広がっていた。しかしそんな空も、あまり気を留めるほどのことでもない。私は鞄を引っ掴むと、早々に教室を出た。

 窓からのぞく空より、外に出て見上げる空の方が、見るものを圧倒する。そんな空を一瞥し、視線を前へ戻した。これから帰らなければならない。晴れてはいても、水溜りというトラップは存在している。そのため、足元への注意を怠るわけにはいかない。そんなことを考えると、自然と足取りも重くなる。しかし帰らないという選択肢はない。私は嫌々ながらも、足を前へくり出した。

 家まで半分ほどのところ。ここまで数多くの水溜りを攻略してきた。複雑に組み合わされたトラップにかからないように細心の注意を払いながら、車という伏兵にやられないように、私はここまで来た。その時だった。私の目の前に、今まで見たこともないような大きな水溜りが現れた。私は肩を落としていた。どう考えても、道をふさぐその水溜りは簡単には攻略できない。攻略するためには、道の反対側へ行って、水溜りの縁ぎりぎりを通らなければならない。私は自然と溜息を吐いていた。

 重い足取りで水溜りの縁、かろうじて通れそうなところへ来た時、私の足は止まっていた。足だけでなく、視線も水溜りに固定された。傍から見たらさぞ滑稽な光景だろう。水溜りの中を覗き込む学生がいるのだから。しかし、この時ばかりは、傍からの視線など頭になかった。

 水溜りの中には、空があった。どこまでも広がる空。青い空。薄い雲を浮かべる空が、水溜りの中にあった。そんな空へ、私の注意は持っていかれた。普段見ていながら、それでいて違う空。私は不思議とそんな空を美しいと思っていた。水溜りは、一つのキャンバスになっていたのだ。鏡のように空を映し出す水面。水溜りというキャンバスに切り取られた空。そんな特別な空。しばらくの間、私はそんな空を見つめていた。

 ただ空を見ただけでは、どうとも思わない。それは、ある意味無限に広がっているという感覚が強いからだろう。しかし、水溜りに映し出された空には、無限という概念が存在しない。そこはあくまで有限だ。それが、私の心を掴んだのかもしれない。そんなことを思うと、水溜りも悪くないかもしれない。ついそう考えてしまう。

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