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  作者: 彰弘
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雨合羽

 学生をやっていると、何やら雨合羽というものがとても面倒臭いものに思える。小さな頃にはあれほど着た合羽も、今ではできるだけ着ないようにしてしまう。何故なのか。考えるだけ無駄とは知りながらも、そんなことをふと考えてしまう。ただ単に面倒なのだろう。ただそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない。

 そんなことを考えつつ、私は学校から家までの道を歩いていた。昨年までは自転車で合羽を着て通学したのに、今では歩きだ。五分ほど歩けば、学校へ着いてしまう。傘を差して歩く道は、何となく新鮮だ。通学に傘を使うなんて、小学校ぶりだ。しかも距離的には小学校と変わらない距離。不思議なものだ。しかし、どちらにしても雨は気分を暗くさせる。

「今日は洗濯が出来ない……」

 誰にともなく呟いてしまう。誰が聞いているわけでもないのに、そんなことを言う。独り言が増えたな。自分ながら失笑してしまった。

「だよね!」

 唐突に耳へ届いた叫び声に、私は思わず振り返っていた。

 私の視線の先には、小さな子供と母親らしき人が並んで歩いていた。通りを二人並んで歩く姿に、何となく懐かしさを感じていたが、不意に笑いが零れた。

 傘を差す母親のすぐ隣を、合羽を着て傘を差す子ども。その子が着る合羽を見て、私は思わず微笑んでいた。

 子どもの着る合羽は、明るい緑色だった。始めはただ緑色なのかと思っていたが、よく見れば、頭に被ったフードに見える突起物。小さな突起物が二つほど。私はそれが何なのか、自然と気にしていた。そして気付いた。それには白い丸があり、その中に黒い丸がある。あれは目なのだろう。そう。あの合羽のデザインは、カエルだったのだ。

 カエルの姿をした子ども。その姿があまりにもおかしく、可愛らしかった。久方ぶりの感覚だった。普段なら、自分とものすごく年の離れた子どもなど、煩いだけの存在にしか思えない。しかし、この時ばかりは違った。母親の隣で楽しそうに笑う子ども。その子の着るカエルの合羽。隣を歩く母親の顔にある微笑み。そんな光景を見ていると、自然とこちらも微笑みを浮かべられる。

 一時のことではあるが、とても気分が明るくなった。不思議なものだ。私はこの親子連れから視線を外し、再び歩き出した。

 昔は自分もあんな風に合羽を着たのだろう。そんなことを思いつつ、私は微笑みを浮かべていた。今この年で合羽を着るのをどう思うかと言われれば、面倒くさいと言うだろう。しかし、合羽を着ている子どもというのは、そんな考えを持っていても微笑ましいものだ。


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