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  作者: 彰弘
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 雨の日に、どこからともなく聞こえてくる声。私はそんな声が、好きだ。



 その日は、いつもより強く雨が降っていた。風もそれなりにある。

 雨粒が窓を叩く音が、部屋中に響いていた。

 私は、雨が好きではなかった。出掛けるにも、傘をささなければならない。地面で跳ねた水が、靴や、ズボンの裾を濡らす。私は、そんな雨が嫌いだった。

 そのため、その日も私は家を出ることをしなかった。鳴り響く雨の音を聞きながら、私は本を読んでいた。少ない休日を過ごす時、私はよく本を読んだ。元々外出は好きではなかったのだ。

 私は、雨は嫌いでも、雨の音は好きだった。雨の音は、その時々で色彩を変える。時に強く打ち付け、時に優しく土を濡らす。そんな、雨の音。私はその音を聞くことが、好きだった。

 私のページを繰る手が止まった。不意に聞こえた、面白げな声。声の主は、外にいる。雨の中、彼は歌を歌う。どんなに雨が強く打ち付けようとも、彼は歌うことを止めない。私は、しばしの間、そんな彼の歌声に耳を澄ましていた。

 彼は、どんな歌を歌っているのだろう。流行歌なのか、民謡なのか。はたまた、恋の歌なのか。私は、彼の声を聞きながら、色々なことを考える。それでも、結論はいつも同じ。美しいものに、理由なんて要らない。美しいと思うから、美しいのだ。好きだと思うから、好きなのだ。

 私はページを繰った。

 外では、彼の他にも歌を歌いだした子がいる。彼ら、彼女らは、歌を歌う。やがてそれは、合唱へと変化していく。雨音を伴奏に、彼、彼女らの合唱が響き渡る。

 恋の歌が、生きているという叫びが、響き渡っていく。

 私は静かに本を置き、その歌に、叫びに、耳を澄ます。


 姿も見えぬ歌い手は、私に生きる強さを説いている。

 姿なき歌い手は、私に生きる素晴らしさを、説いている。

 私は、そんな彼らの声が、好きだ。

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