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6節 覚悟を決めた者
女性は微笑む。艶やかな顔を崩し、青い唇を震わせながら。
女性は微笑む。青く半透明な皮膚で構成された身体を揺らしながら。
“初めまして、ごきげんよう”
女性はこちらへ向かって小首を掲げ、優雅に挨拶の言葉を口にする。
半透明の身体を覗き込むと、世界の真実が見えた気がした。あまりしげしげと見つめると女性は恥ずかしがるので、すぐに目を逸らした。
“貴方が私のご主人様になるのね。よろしくお願いします。お名前をお聞かせくださる? ああ、ごめんなさい。私にはまだ名乗る名が無いの。付けてくださる? うふふ、そうよ、貴方が私の名付け親になるの。だって貴方はーー”
女性は艶やかに微笑みながら、次第に顔を曇らせてゆく。ーー何かを、思い出したようだ。
“……違う”
違う? 何が違うのだろう。
女性は両手で頭を抱え、肩を奮わせる。
“違うわ。私には、名前があるの。<あの子>が、付けてくれたの。私にピッタリだからってーー”
ついに女性は顔を覆い隠し、その場にうずくまってしまった。
女性が次に顔をあげた時、その表情には<覚悟を決めた者>の意思が刻まれていた。