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影操師 ―誰かの記憶の物語―  作者: 伯灼ろこ
第二章 少年が見た記憶
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 4節 死者は誰?

「さて」

 ベランジェは両手の平をぱんと打ち鳴らした。

「残念ながらミシェルちゃんはお使いへ行ってて研究所にはいないみたいなので……アリアちゃんには先にお手伝いをしてもらおうと思います」

「はい」

 アリアは用意された白衣に腕を通し、落ち着かない気分でベランジェからの言葉を待つ。

「知っての通り、ボクは人体専門の研究者でね。人間の身体に突如として起こりうる異変について日夜頭を悩ませている」

「異変……。病気、とかですか」

「病気……と言っても良いかもしれないね。アリアちゃんはさ、死んだ人が蘇るところを見たことある?」

 ベランジェの話から現実味が遠ざかる。研究者ならざる内容だ。

「え? まさか、ゾ、ゾンビとかですか??」

「いや違う。それは死体が動いてるだけでしょ? ボクが言っているのは、死んだ人間が生き返ること、だヨ」

 アリアは無意識的に脳裏にリーテの顔を浮かべるが、すぐに頭を振って打ち消す。

「……。そんなことあるんですか」

「あるある。まぁ実質的には死んでるんだけど、その事実を誰も認知しないってことかな」

「? つまり?」

「つまり、そのヒトは本当は死んでいるのに誰もがその事実に気付かずに、そのヒトが生きていると信じこんで接しているコト」

「死んでるのに、誰も気付かない? しかも、その死者と接する??」

 研究者はみんな頭が良いことは知っているけども、ここまで突飛な発想をされると逆に頭のおかしな人に成り下がる。

 アリアからの疑いの視線を受け、ベランジェは苦笑いを浮かべた。

「まー、今まで<偽りの平和>の中で生きてきた子に、突然<世界の真実>を告げても信じられるわけないかぁ」

 ベランジェは立ち上がる。

「よし。前置きは無しにして、実践しちゃった方が早い。実験棟へ行こう」

 渋るアリアの背をたたき、ベランジェはあくまで陽気な調子で実験物を披露した。

「え……? ベランジェさん、なにやってるんですか!」

 アリアがそう叫ばずにいられなかった光景は、同じ服を着用させられた100人くらいの人間たちが鉄格子で囲われた広い空間の中に押しこめられているというもの。

 人々はみな不安を隠せないようで、実験棟に姿を現したベランジェと、そしてアリアまでをも怖れの目で見る。

 一点集中をする視線を受け、アリアはあたかも悪者になってしまったかのような錯覚に陥る。

「この人たちはねぇ、グラード王国の食糧調達の為に攻め入られて滅ぼされた憐れな村人たちだよ。ちなみに昨日の出来事」

 ベランジェは慣れたように視線をかわし、説明を加える。

「そ、その人たちがどうして研究所に……??」

「お優しいお優しいウチのセンフェロン国王が保護して下さったんだよ。でも国内に住まわす前に調べておきたいことがあったから、一旦研究所ここで預からせてもらってるワケ」

「あ……ああ……預かってるだけなんですね……良かった。人体実験にでも使うつもりなんだと思ったわ。だって、あの人たち皆が怯えた目をしているから……」

 ベランジェは笑顔のまま、さらりと言い放つ。

「人体実験するよ?」

「え?」

「正確には、異常が無いかをチェックする。異常がある人間は悪いけれど、国内には住まわせれない」

「異常って……何ですか?」

「病原菌と表現した方が良いかな。僕の勘だけど、村人たちの中には保菌者がいる。それをいち早く調べあげて隔離しなくちゃならない」

 ベランジェは続けて言う。

「その保菌者が、いわゆる<生ける死者>なんだよーー」

「…………」

 村人たちを見渡すアリアの耳元で、囁かれるように、その言葉が動き出す。



「さぁ、アリアちゃん。君にはわかるかな? ーー死者は、誰?」

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