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7.転機

 戸棚の中ではいかにも悪党といった風なごっつい男が、頭を抱えたままガタガタと震えていた。


「い、命だけは助けてくださぁい!!

 俺は違うんだ!! こんな事やりたくなかったのに!!

 死ぬのはいやだああぁぁぁ!!!」


 男はごつい体に似合わない弱気さで、見苦しく命乞いをした。


「そういう事は、あの世に逝ってからお仲間に仰ってくださいね」


 リオンが氷の微笑を浮かべたまま、ゆっくりと歩を進める。


 止めなくちゃ。

 弟にこれ以上人殺しなんてさせちゃいけない。


 そう思うのに、数分前の自分の所業を思い出すと、どう声をかけてよいのかわからない。 


 いったいどうしたら……。

 考える間にもエラジーが引き抜かれ、男の首に刃があてられる。


「待った!!」


 突然叫んだのはアリシアだった。


 リオンはアリシアが『情けのある言葉』を発したのがよっぽど意外だったのか、目をぱちくりさせた後、首をかしげた。


 その姿は魔剣の刃を男の喉元に突きつけてさえいなければ、本当に、本当~~に可愛いのだが、普段の容赦の無さを知っている俺としては、ちょっと複雑な気分だ。


「その男、役に立つわ」


「「まさか」」


 俺とリオンの声がハモった。

 別に命乞いする臆病な男まで殺してよいとは思わないが、見掛け倒しなその男が、何かの役に立つとは到底思えない。


「馬鹿ねえ。こういう小心者の方が手下として使うならいいのよ。

 よく考えたら、用心棒は確かにいたほうがいいわ。でもさっきの男たちは全員殺してしまったし、ラフレイムに入ってから適当に見つけるつもりだったけど、こんなところで見つけられるなんてラッキーね。

 やっぱり日ごろの心がけがいいと、こういう幸運にめぐり合うのかしら?」


 アリシアが嬉しそうに言う。

 なるほど。

 ……日ごろの悪党としての心がけか。


「ほら私たち、美女と美少年でどう見ても可憐で弱々しそうじゃない?」


 男が密かにふるふると首を振るが、アリシアは見なかったフリをして続けた。


「この男なら張りぼてとして利用できるわ。

 悪党面だし、がたいは良いし、一緒に歩かせたらそれだけでかかる火の粉の量が違うわよ!」


 ……なるほど。こずるい事が得意そうな、アリシアならではの発想だ。

 あの残虐な公爵の元で、生き残れただけはある。


 きっと彼女の卓越した小狡さと厚かましさ、鬼の決断力の賜物なのだろう。

 ……何か色々台無しだな…………前は違うところで感心していたのに。


 俺たちはそいつの命を助ける代わりに、俺たちの手下とすることで話をつけた。

 男の名前はマイケルと言ったが、アリシアが「そんな弱そうな名前。けっ!」と言ったため、ウルフという名前に(無理やり)改名された。


 俺的には「どうなんだろう?」と首をかしげるような名前だったけど、反論は許されなかった。


 リオンは複雑そうな顔をしていたけれど、


「本人が了承しているのならいいんじゃないでしょうか?」

 

 と、そっけなく言った。


 まあ、命と引き換えの了承だがな。


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