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7.暗転

 しかし、中に転がっている母親の死体をこのアリシアという女に発見されれば、とんでもない騒ぎになる。


 リオンもそう思ったのか、血に濡れたエラジーをアリシアに向けた。


「あら? 私を殺そうって言うのかしら?

 ふうん。また母さんのお人よし癖が出て子供を匿っているのかと思ったら、違うようね。

 坊や、剣を下ろしなさい。

 別に私は逃げも騒ぎもしないわよ。

 ただ母さんに一目会いたいだけ。それも許してはくれないのかしら?」


 女は相変わらず微笑を浮かべて、堂々としていた。


「……ミランダは死んだ。俺たちが殺した。俺たちを騙して奴隷に売りやがったんだ。だから……」


 俺は女を睨みつけた。俺たちは間違っちゃいない。悪いのはお前の母親。

 あの糞ババアの方なんだ。


「……あらそう? 母さん死んじゃったの。もう少し生かしておいてくれたら私が殺してあげたのに」


 アリシアは、実の親が死んだというのにころころと笑った。


「あらあらそんな顔しちゃって。何か変な事でも言ったかしら、私。

 ねぇ、坊やたち。売られた娘がどうなると思う?」


 答えられずにいた俺たちに向かって、女は話し続けた。


「今頃買い戻したって遅いわよ。私が転売されていった先はハーケン公爵様のお屋敷なのだから」


 ハーケン公爵。それは燐国であるエルシオン王国にまで密やかに伝わってきた狂人の名だ。


 ハーケン公爵は現王の同母弟だが気性が激しく、ほんの少し粗相をしただけで使用人の耳をそいだり腕を切り落としたりしていたらしい。

 困り果てた王は、そいつを小さなお屋敷に閉じ込めた。


 ただし、凶悪な振る舞いは相変わらずだ。

 名家といえど、その家に仕えようとする者は全く集まらず、奴隷商がこれはと思う見目の良い女奴隷に上流のマナーを仕込んで、侍女として送り込んでいるのだ……と王子時代に耳にしていた。


「私はそこで、奴隷侍女として働いていたの。

 お屋敷に送り込まれてから4年。その間に百人以上の奴隷侍女がむごたらしく殺されてしまったわ。

 私は幼い頃から宿で働いていたから、他の子たちより仕事が出来た。要領もずっと良かった。

 だから4年もの間生き延びられたけど、同期の女の子たちは全員殺されちゃった。

 ずっとそんな環境にいたのに『昔のままのかわいいアリシア』が帰って来るって信じているんだから、わが母ながら頭がいかれているわよねぇ?」


 容姿が美しいだけに、冷ややかな眼差しはゾッとするものがあった。


「さて、私は母さんに会って恨み言だけでも言ってスッキリしてくる事にするわ。

 その後はそうねえ。

 騒ぎになる前に逃げ出さなきゃ。

 公爵様の元に戻るなんて、真っ平だし」


 そういい捨てるとアリシアは、俺たちを押しのけて中に入ってしまった。


 俺とリオンは剣を抜いたまま後を追った。

 騒いだらすぐにでも殺すつもりだった。


 両手で足りないぐらいの人間を殺してしまった俺だ。今更一人ぐらい増やしたところで、どうだというのだ。


 まして、彼女は俺たちを売り飛ばした女の娘。


 恨むなら自分の母親を恨むがいい。



 

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