表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/451

4.シリウスという国

 いろいろあったが、結局教会には引き取ってもらえなかった。

 この国の教会は孤児の面倒など見ないらしく、俺たちのみすぼらしい格好を見た神官は、うるさそうに追い出した。


 なんという奴らだ。


 それなりに収入の入る婚儀などは喜んで引き受けても、貧乏人の世話などまっぴらごめんということらしい。


 エセ神官たちめ。

 俺の国だったら、こんな事は絶対にないのに。



 夜になり、宿のベットに入る。しかし、疲れている割には眠れずにいた。

 行く末を思うと、不安ばかりがつのる。

 

 教会だったら、たとえ俺たちがエルシオンの王子でも、そ知らぬふりでかくまってくれると思っていたのに。

 喜んで手を差し伸べてくれると思っていたのに。


 国の中で一番慈悲深いはずの神官たちでさえも、慈悲の欠片さえなかった。

一般の民ならなおさら無いことだろう。


 手持ちのお金が尽きたら、俺たちはどうなってしまうのだろう?


 悶々と悩んでいたら、部屋をノックする音がした。

 音に気づいたリオンもムクリと起き上がり、警戒の色を浮かべる。


「あたしだよ。開けておくれ」


 聞き覚えのあるその声は、昼間少ししゃべったこの宿の女主人のものだった。

 ドアをあけると、例のおばさんがすまなさそうに立っていた。


「昼間は冷たい事言ってごめんよ。

 でも、あたしもあれから色々考えたんだ。

 この国は15才未満の子供の労働は、認められてない。

 けれど、親や親族の店を手伝うことだけは許されているんだ。

 もし、本当に身寄りがないのだったら、おばさんの子供になって働かないかい?

 私には娘が一人いたんだけど、なくしちまってね。あんたたちみたいな可愛い子供ができたら、あたしも寂しくなくなるような気がするよ。

 まぁウチは見てのとおり貧乏宿屋だから、贅沢はさせてあげられない。

 けれど、あんたたちを食べさせていくことぐらいなら、出来ると思うよ?」


 俺とリオンは、いきなりのことにびっくりして、すぐには口も利けなかった。


「まあ、すぐに返事なんて出来ないだろうから、ゆっくり考えといておくれ。

 そうそう、ウチみたいな安宿に来るぐらだから、お金、あんまりないんだろ?

 屋根裏部屋でよかったらタダで泊めてあげるから、とりあえず明日からあっちに移りな。

 それから養子の件はともかく、ウチの仕事をこっそり手伝ってくれたらご飯は3食つけてあげる。

 あんたたちは子供だし、外聞が悪いから人目につかない裏方仕事しかさせてやれない。多分それなりにきついけど……どうするかい?」


 養子の話にはさすがに考え込んだ。

 いろいろな事があったとはいえ、俺の父母はやっぱりあの二人だけだ。

 それに変装しているとはいえ、故国に近いこの国に長くとどまること自体、とても危険なことなのだ。


 しかし『こっそりと人目につかない場所で働かせてもらう』という条件なら願ってもない。

 色々考えると、素性を隠すためにもっと故郷の国から離れたかったが、それにしても年が足りない。お金も。


 でもあと1年でもここで隠れて働くことができれば、俺は14歳を過ぎ、背だってもっとずっと高くなる。

 年齢をごまかして、ここより離れた遠い異国で働く事だって出来るだろう。


 俺はおばさんの親切に甘えることとした。



 それから1週間、俺とリオンは洗濯掃除に明け暮れた。

 仕事はきついといえばきつかったが、おばさんは親切だし、食事はお腹いっぱい食べられる。


 今までの過酷さを思えば何でもなかった。


 たまに『大国の王子が安宿の洗濯係か……』などということが頭をよぎるが、なるべく考えないことにした。


 リオンは意外と楽しそうだった。

 こんな苦労をかけて本当に可哀想だったが、本人は苦とも思っていない様子だ。


「洗濯・掃除は得意です!」


 と、むしろ張り切っていた。

 そしておばさんに仕事の出来を褒められたり、頭をなでてもらったりして、とても嬉しそうだ。


 弟の頭を撫でて良いのは俺だけなんだが……と、ちょっとモヤモヤしなくもないが、そこは我慢だ。

 こんなに良くしてくれるおばさんに焼きもちを焼くなんて、どう考えてもみっともない。


 でも、こんなにも不安な気持ちになるのは『もしリオンの心が俺から離れてしまったら』ということを考えてしまうからなのだろう。


 リオンを可愛がってくれる人は、俺以外にもいっぱい居るはずだ。


 可憐な容姿に、幼い心。

 故国の里の人たちだって、あれほど人見知りなリオンに良くしてくれた。

 最後にはリオンだって里の数人に、けっこう懐いていたじゃないか。


 リオンが俺から離れていってしまったら、どうしよう。


 里の人たちは、それでもいっしょに暮らしていたわけではないから、リオンを取られる心配などはしたことがなかった。

 むしろ、弟に良くしてくれてありがたいと思っていた。


 でも、今回は違う。


 あのおばさんの子供となって、俺と別れてでもここにずっと居たいと言いだしたらどうしよう。


 もう俺には、リオンしかいないのに……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ