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6.エドガー

「兄様、エドガーさんの死体は茂みにかくしておきました。

 さあ行きましょう」


 リオンがにっこりと笑う。


「行くって、いったいどこへ……」


 転がっていたたいまつを拾い、皆がいる所とは逆方向に、リオンは向かう。


「どこって……あてはありませんが、ここは危険です。

 だって兄様の国の方々は、これまで王族に守ってもらった恩を忘れて、兄様のことを恨んでいるではありませんか」


 恨まれている。

 その通りだった。


 最後まで俺を信じてくれていたはずのエドガーでさえ、俺を許しはしなかった。

 朝になってエドガーがおらず、殴られた跡のある俺だけがいたら、皆はどう思うだろうか?


 俺とエドガーが、火の番をしていた事は皆が知っている。

 火の番を代わってもらった婦人は、俺とエドガーが一緒に森の奥に行ったことすら知っている。


 朝になれば皆が俺を責めるだろう。

 国を裏切り、友を死なせ、のうのうと生きているこの呪わしい王子を。


 その事が突然怖くなった。

 

 エドガーになら、殺されても仕方がないと諦められた。

 でも、いくらわが国の民だとはいえ、ほんの一言、二言交わしただけの者達に囲まれ、なぶり殺しになるのは恐ろしかった。


 俺は城で様々な国の歴史を習った。

 民衆に恨まれ、なおかつ権力や後ろ盾を無くした貴族や王族の末路は悲惨だ。


 つい十数年前にも少し離れたあたりの小国で革命があり、王も貴族もひどい拷問を受けた上に、手足を切り落とされて狼のいる牢に投げ出されたという。


 俺は死ねない体だ。

 痛みと恐怖に耐えてやっと死ねたとしても、また生き返ってしまう。

 そうしたら今度は『化け物』として扱われ、繰り返し酷い方法で殺され続けるだろう。俺の息の根を完全に止めるために。

 

 そんな地獄は、いくら罪深い俺だとて耐え難く思えた。

 それに、リオンの事だって放っておけない。


「……わかった行こう。

 でもその前に、これを火の番を代わってくれたご婦人に渡してくれ。

 朝になったら、路銀として皆に配るようにって」


 肌に巻いた隠し袋の中から、小さな麻袋を取り出した。

 中には砂金が入っている。

 皆で分けても当面の暮らしには困らないはずだ。


「すまないリオン。これはお前との生活に使おうと思っていた。これが無くなってしまったらきっと、お前に貧しい生活をさせることになると思う。

 でも、俺は王子なのにあの者たちに何もしてやれない。

 だからせめて、この砂金を路銀として渡してやりたいんだ」


 それは単なる言い訳なのかも知れなかった。

 砂金を与える事、奴隷をアレス兵から救い出したこと、その二つで俺は自分を満足させようとしていた。

 

 ここで民を見捨てて逃げ出すことは、世継ぎとして育ってきた俺には死ぬことと同じぐらい恐ろしい。

 せめてそのぐらいはしておかないと、正気を保てなくなりそうだ。

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