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5.エドガー

 手には魔剣エラジー。

 記憶より刀身が長くなっているその先は、エドガーの心臓近くを貫いている。


「お前……な、何を……」


「見ての通りです。兄様に危害を加える『凶悪な害獣』は、もう退治致しました。

 ご安心なさってくださいね」


 リオンはにっこりと微笑みながら魔剣を引き抜き、痙攣を続けるエドガーの襟首を掴んで傍らに投げ捨てた。


「外の世界って本当に怖いのですね。兄様と親しそうに話していた『優しいエドガーさん』が、あんな方だったとは」


 そう言って、リオンはぶるっと小さく震えた。


 それから振り返って、エドガーを冷たい目で見下ろす。


「ねえ、エドガーさん?

 好き放題言ってくださいましたけど、僕からもあなたに一言、言わせてくださいね」


 リオンは少しかがみ、横たわったまま動けない俺の手をとりながら、エドガーに言った。


「あなたやあなたのご家族が、今まで無事に暮らせていたのは、誰のおかげかご存知でしょうか?

 さっきあなたは、国民全てを犠牲にしてまで弟一人を助けるなんて『間違っている』とおっしゃいましたね?

 でも僕は兄様に会うまで、あなたのように日の光を浴びて自由に過ごしたり、家族と笑い合って暮らすという幸せを知りませんでした。

 僕は、僕を想って下さる兄様のためになら、今からだって自由のない地下に戻って一生祈りを捧げ続ける事が出来ます。

 でも、僕を犠牲にするのが『当然』だと考えるあなたのためになど、馬鹿馬鹿しくって出来ません。

 何も知りもしないで、僕や兄様を否定するあなたを僕は許さない。

 ああでも……もう……聞こえていないようですね」


 リオンはガッカリしたように首を振ると、


「一撃で殺す方法しか習った事が無かったので、うっかり殺してしまったみたいです」


 と、小さく呟いた。


 もう涙も出なかった。

 いろんな事が、一度に起こりすぎて感覚が麻痺してしまった。

 

 幼い頃から当たり前だった世界が、音を立てて崩れていく。


 気持ちを通い合わせていたはずの友は俺を殺そうとし、その友は弟の手によって、いとも簡単に命を摘み取られた。


 エルシオンに居た頃は、幸せも平和も空気のように周りに満ちていて、それをありがたく思うことすら無かった。


 でも今は、必死で手を伸ばしてもそれらに届かない。


 これがアースラが俺に望んだ『罰』なのだろうか?

 それとも、このようなことは外の世界では『ごく当たり前の事』でしかないのだろうか?

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