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3.エドガー

 焚き火の番をエドガーと一緒にしながら、奴隷にされていた人々を休ませる。

 夏なので、夜中であっても寒いという事はない。


 むしろ焚き火のそばにいると暑くてたまらない。

 しかし、害獣に備えるためには、焚き火は必ず用意せねばならないのだ。


 俺のひざの上に頭を乗せたリオンは、すうすうと可愛らしく眠っている。


 最後まで「僕も火の番を致します!」と言い張っていたけれど、やはり疲れには勝てなかったようだ。

 膝に頭を乗せてやると、気持ちよさそうにすぐ眠ってしまった。


 無邪気な寝顔を見ていると、つい数刻前の事を忘れそうになる。

 血まみれの手を掲げ、嬉しそうに笑っていた時の面影は、もうまったく無い。


 あれは俺の勘違いだったのだ。

 こんなに幼い、天使のような顔で眠る弟に、底知れぬ狂気を感じるなんて。


 きっと弟は魔縛が成功して、再び俺に会えた事を単純に喜んでいたに過ぎないのだ。


「リオン……」


 城を出るときに短く切ったふわふわの髪は、あの時より少し伸びていた。

 頭を優しく撫でて名を呼ぶと、「ん……」と可愛らしい声で反射的に返事して、またそのまま眠りに落ちた。


「それにしても、すっっっげー可愛い弟だよなッ!

 お人形さんみたいだ。いいなー。俺んちの弟はぶっさいくだし、狂暴だしうるさいし、大食いだし、こんな見かけも中身も超絶可愛い弟なんて反則だよなー」


 エドガーがしみじみと言う。


「おまえんちの弟だって可愛いじゃないか。そういえば弟はどうしたんだ?

 まさか……」


「う、ああ。生きてはいるはずだよ。俺とは違うところにやられたけど。

 ……多分奴隷にされているんじゃないかな。

 早く助けてやらないと……。

 父さんも母さんも死んじまったし、いつも生意気な弟だけど、俺が助けてやらなきゃ」


 エドガーはぼんやりと言った。

 その言葉に力は篭っていない。


 多分わかっているのだ。

 わが国をあっという間に征服しつくしたアレス帝国に逆らってみたところで、どうにもなりはしない事を。


「そういえば、エル王子はここのところ体調不良で臥せってるって門番の人から聞いたけど、元気そうで安心したよ。

 もしかしたら俺が手配した馬車に乗った後何かあって、それで表向きはそんな風に隠されているのかと思っていたから」


「え? あ、ああ。心配をかけてすまない」


 俺はドキッとしながらも、平静を装って返事した。


 俺とリオンは、エドガーに用意してもらった馬車で密かに出発した。

 しかし帰りは自力で帰ると言った。

 遠縁のこの子を密かに送っていった後、すぐに帰るからと。


 もちろん、帰る気などさらさら無かったが。


 城のほうでは、王子失踪を結局表ざたにしなかったようだ。

 まあ、あんな不祥事、すぐ表に出せるわけ無いか。


 多分1年ぐらいそのままにして、その後病死したとでも発表する手はずになっていたのではあるまいか。


 しかし、そんな父王からも見捨てられた俺の事をずっと心配してくれたエドガーを騙してしまった事に、今更ながら罪悪感を覚える。


「……なあ王子。こんなに元気なら、なぜあの時戦わなかったんだ?」


 エドガーの口調が、突然低いものに変わる。

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