2.エドガー
「ところで……なあエル王子、この子あんたの『弟』だって言ってるんだが、本当か?」
エドガーがリオンをまじまじと見る。
そうだった。彼はリオンの存在を知らない。
エドガーに馬車の手配をさせた時、俺はリオンの事を『家出してきた遠縁の子』だと言った。もちろんリオンの姿自体見せていない。
もし世継ぎが妾腹の弟と共に城を飛び出したなんて事が国民に知れたら、それはそれで大変な事になる。
母上やヴィーだって、笑いものになってしまうかもしれない。
そこで、迷ったうえの苦しい嘘をついたのだ。
リオンが俺の顔を伺う様に見た後、悲しそうに目を伏せた。
また厨房のジェーンおばさんの時のように『他人』として紹介されると思ったのかもしれない。
あの時は、リオンの存在を人々に知られるわけにはいかなかった。
でも不謹慎とは思うが、国も母上も亡き今なら何の問題もない。
「……そうだよ。『リオン』っていうんだ。
わけあって今まで一緒に暮らせなかったけど、俺の大切な弟だ」
「へえ……やっぱり弟なんだ……」
ぱあぁっと顔を輝かせたリオンとは対照的に、エドガーはガックリと肩を落とした。
何か不都合でもあったろうか?
王妃一筋で有名だった父王の事を尊敬していたエドガーだから、リオンが妾腹である事を察してがっかりしたのだろうか?
「……こんなにメチャメチャ可愛いのに『妹』じゃないなんて……詐欺だ……あんまりだ……」
エドガーは力なく呟いた。
どうやら俺の心配は、的をはずしていたようだ。
エドガーはリオンの事を『男装した女の子』だと思っていたらしい。
まあ……気持ちはわかる。
俺だって、いまだにそう見えるのだから。
「兄様……妹でないと人の世では、こんなにまでガッカリされるものなのでしょうか?
そういえば兄様も妹姫をたいそう可愛がっておいででしたし……僕……弟でごめんなさい……」
早速瞳をうるうるさせ始めたリオンをぎゅっと抱きしめ、エドガーを睨み付ける。
「おいこらエドガー。俺の大事な弟を泣かすな!!
よしよしリオン、俺は弟のお前を世界一大切に思っていてるからな!!」
そう言うとエドガーは「兄馬鹿め」と低く呟いた。