7.奴隷奪還
「お前には不死の呪いがかかっていると言ったじゃないか。心配するな。
あの完ぺき主義者の糞アースラが、邪悪な力のすべてをこめて作った呪いだ。
黒焦げの骨だけになっても再生するさァ。
安心して死ぬがいい」
ヴァティールは俺を見てニヤリと笑った。
……冗談じゃない!!
いくら再生するといっても焼死だなんて、考えただけでも恐ろしかった。
以前父上について行った時に聞いた、イシュタ王国の馬鹿王の言葉が浮かぶ。
『わが国では罪を犯した者はどんな小さな罪であっても、火あぶりの刑に処す事にしているのですよ。
人間というものはね、たとえ表皮が黒焦げになったとしても内臓に損傷を受けていなければ中々死ねないものなのです。
だから火にかけられた罪人は、長い間もだえ苦しみ続けてくれます。
その様子をですね、民衆に公開する事によってわが国の犯罪率は貴国にも劣らぬようになりましたよ』
イシュタ王はさも自慢そうに言って、縛られたまま炭化した刑場の死体を俺たちに示した。
人としての姿をかろうじて残したその屍は、喘ぐように口をあけていた。
当時の俺は、まだ10歳を少し過ぎたばかり。
その光景が忘れられず、ほぼ半年間夢でうなされた。
嫌だ。
死んでから焼かれるならともかく、罪人のように、生きたまま焼け死ぬなんて恐ろしすぎる。
「魔力で雨を降らすことは出来ないのか!?」
「ああ、そういう魔法は実は得意だ。でも今は無理だなァ。大勢の兵士の血をエラジーに吸わせて魔力を蓄えたとはいえ、この火事を全て消し去るほどの力は出ない。
まァ、お前が……どうしてもというのなら、出来ないことはないけどなァ?」
魔獣が俺を見てニタリと嗤う。
「では……どうしても……だ!!
このままでは俺たちだけでなく、逃げた民たちも焼け死んでしまう!!
さあ、早く!! ヴァティールっ!!!」
叫ぶ俺に、奴は再びニタリと笑った。
「その言葉を待っていたよ。ではワタシに続いて呪文を唱えろ」
俺は急いで、ヴァティールに教えられた通りの呪文を詠唱した。
「ハルラ・ウルク・カオスリア!!」
そのとたん、大雨が降ってくる。
火勢は見る見る衰え、雨が止む頃には煙の筋だけが細々とたなびくのみだ。
「すごいじゃないか、ヴァティール!!」
俺は魔獣を素直に褒めた。
「……そりゃ、一時的にとはいえ、解縛されたからなァ。これぐらい造作もない。
これからだってピンチの時には、さっきの呪文を使って何度でも解縛するがいい。
ただしお前が『一時解縛の呪』を唱えるたび、ワタシにかけられている魔縛は少しずつ弱まっていく。
今までの魔縛も糞アースラのものよりはずっと弱かったが、それでも出せる力はせいぜい超低級魔族クラス。
しかもお前の命令なしじゃ、魔力をほとんど使えない。
でも今は違う。
お前を傷つけたり、命令なしで遠く離れたりは出来ないが、私の裁量で使える力はずっと増した。
哀れな奴隷の生活はこれで終わりだ。あはははッ!! ザマーミロッ!!!」
ヴァティールは高らかに笑った。