5.呪い
翌日、魔獣は約束通り、死体の火葬を手伝ってくれた。
気が向けばちゃんと言うことを聞いてくれるらしい。
ヴァティールの手のひらから、小さな炎が生まれる。それがふわふわと宙を漂ったかと思うと、死体に触れたとたん、業火となって折り重なったそれらを焼いていく。
百以上もの死体が燃えていく様子は壮絶だったが、それでも俺は、目をそらさずにそれらを見つめ続けた。
「なあヴァティール、俺とリオンには魔道士アースラの『呪い』がかかってるって言ってたな?
具体的にはどんな呪いなんだ?」
燃え続ける炎を前に、俺は問うた。
「ああ、アレかァ?
アレは前にも言ったが、人間が使ってはならない『不死の禁呪』だ。
アースラは、元々不死の研究を進めていた。
で、寿命でくたばる前に、あの小ズルイ頭であいつらしい外道な魔法を完成させやがったようだな。
いつか王の子孫が禁忌を破って国を破滅に導いたなら、そいつに責任を取らせようって腹なのだろうよ」
そう言ってヴァティールは、ため息をつく。
「まったく……アイツは何百年たっても、身内にすら容赦が無いなァ。
アースラは始祖王シヴァの従兄弟だった。
兄弟のように育ったと聞いている。
お前はシヴァ王とアースラの妹リリーシャの間にできた子供の子孫。
なのに、コノ仕打ちかよ。
不死の魔法がかかっている間は『その人間』は死ねない。
突き殺されようが、全身の皮膚をはがされようが、燃やされようが、いったん死んでもまた体が再生し、息を吹き返してしまうのだ。
生き返る力はあるのに治癒の力は人間並で、痛覚もある。
多分、狂うことすら出来ないんじゃないかァ?
全く糞アースラらしい、神をも恐れぬ邪悪な魔法だよ」
ヴァティールが吐いた内容は、俺が思っていたものよりずっと酷いものだった。
「……どうしたら、呪いが解けるんだ?」
「さァ? ワタシが知るものか。
奴は、どこだかの禁制陵をあばいて手に入れた禁呪を元に研究していたが……あの根性悪が、解呪の方法をワタシに喋るわけがないだろう?
でもそうだな、アイツの事だから……破滅させてしまったエルシオンと同等な国を興し、結界を再構築出来ればお役御免で解放……て感じに組み立てているんじゃないかな?」
「そ、そんなの無理だ!!」
弟がまだ生きていることは嬉しいが、国が滅び、王子でもなくなった俺に、今更どんな力があるというのか。
だいたい、結界の知識なんて俺には無い。
そんな結界が昔語りでなく、本当に実在していたことさえ最近まで知らなかったのだ。もう一度張りなおすなんて、無理に決まっている。
「まあ、元通りにするなんてのは『普通の人間』には無理だろうなァ。
でも、オマエには契約によってつき従うこのワタシがいる。
そしてオマエは、あの始祖王シヴァの末裔だ」
魔獣は、まっすぐに俺を見た。
「最後の王……お前の父の体内にあった『魔水晶』の行方はわからない。
しかし、見つけ出してオマエのものとすれば、全ての条件が揃う。
結界の張り方はオマエの弟が詳しく知っている。この頭の中から取り出すのは、簡単だ。どうだ、やってみるかァ?」
ヴァティールにそう言われた俺は、しばし考え……そしてうなずいた。