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3.呪い


「……おい、……今度こそ……本当に、リオンなのか?」


 そう言って恐る恐る顔を覗き込むと、リオンはにっこりと笑った。


「そうだよ兄様…………なァんて、な?」


 リオンの表情が、ニッと歪む。


「リオン、って言ったっけ? この餓鬼。

 ちっこいくせに、アースラそっくりの嫌な餓鬼だ。

 死んだ振りしてこのワタシをはめようだなんて、本当に末おそろしい餓鬼だ」


「……リ……リオン……?」


 俺は、魔道のことはよくわからない。

 しかしリオンは、何かを仕掛けようとしていた。

 ただ、それは失敗したらしい。だからリオンはもう、いないのだ。


 こらえようとしても頬を涙が伝う。魔獣の前でなんか、泣きたくないのに。


「……おい小僧。何を辛気臭い顔をしているのだ。鬱陶しい。

 そういう顔をしたいのは、ワタシの方だ。」


 魔獣はさも嫌そうに、俺を見た。


「糞チビの仕掛けたオマエの『魔縛術』は、完全にではないがワタシにかかった。

 ワタシと糞チビは、今同化している。

 糞チビがオマエの魔縛を受け入れた以上、アイツの意識が消えたとしても、ワタシはオマエに縛られる。

 もうワタシは、主人であるオマエに移れない。そして魔力の9割以上をオマエとあのチビに縛られた。本当にむかつくが、契約に従ってオマエごときに仕えてやろう」


 そう言うと魔獣は、リオンの姿のまま俺に膝を折った。

 ということは……さっきのはリオン自らの体と魂を使った、魔縛の呪文だったのか。


 それは成功したらしい。

 しかし、今更魔縛が成功したとて何になる。


「やめてくれ……リオンは俺の大切な弟なんだ。

 リオンの体でそんな事をするのは、止めてくれ……」


 涙が溢れて仕方なかった。

 結局リオンは幸せを掴めずに、またしても死んだのだ。


 しかも罪深い俺にひざまずく、こんな体だけを残して。


「う……ぐ……ああっ……あああ……」


 慟哭の声を抑えることは出来なかった。

 こぶしを握り、床に這いつくばってみっともなく泣いた。



 どれぐらい泣いたろう?

 気がつくと、何故か魔獣が気の毒そうな顔で見おろしていた。


「……まあ……そんなに泣くなよ」


 魔獣らしからぬ言葉に瞬いていると、奴はリオンの顔と声で先を続けた。


「考えてみれば、お前もあのクソ魔道士の被害者だよなァ。

 まだ13歳のションベン臭いガキなのに、ここまでの責務を負わせるなんて、滅茶苦茶だよなッ!!」


 何が言いたいのかわからずただ戸惑っていると、魔獣はまた喋り始めた。


「言っとくが、オマエの弟は死んだわけじゃない。

 奴は未熟とはいえ、糞アースラの力を継承する忌々しい神官魔道士。

 オマエと違って、簡単にワタシに飲み込まれたりはしない。

 今は力のほとんどを魔縛に使い、この体の中で死んだように眠っているが、本当に死んだわけじゃない。

 それにオマエたち二人には、糞アースラの邪悪で陰険な呪いがかかっている。

 すなわち、不死の呪いだ。

 人間ごときが使う事は許されない『最悪の外道魔法』だ」


 魔獣は吐き捨てるように語った。


「……じゃあ……じゃあ、リオンは生きてるんだな……リ……リオンっっ!!!!」


「こ、こら抱きつくな暑苦しい!!

 今はこのワタシ、魔獣ヴァティールがこの体を使っているのだ。離せ馬鹿者!!」


 魔獣は俺を振りほどこうとしたが、俺は必死にしがみついた。


 この体の中に、ちゃんとリオンがいる。

 俺のせいで死んでしまったと思っていたリオンが。

 二度と会えないと思っていた弟が。


 どうかお前を想う俺の温もりが、少しでも伝わりますように……。


「……ったく仕方の無い馬鹿だ。

 こんな暑苦しい主人に仕えねばならないなんて、最悪だ……」


 魔獣ヴァティールは忌々しそうに呟いたが、何故かそれ以上振りほどこうとはしなかった。

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