2.呪い
魔獣の手のひらに、青白く揺らめく炎が生まれる。
「さあ、これを飲み込むのだ。
そうすればオマエの魂は消え去り、その体はワタシのものとなる」
俺は、青白い炎をじっと見つめた。
王子の俺が『地魍霊』になるのも情けないが、『魔獣の体』と成り下がるのも、かなり情けない。
しかし俺の不用意な言葉で命を落としたリオンの体を、魔獣なんかに渡すわけにはいかない。
……どうせ生きていても、仕方の無い身。
俺の体一つで弟の亡骸を取り戻せるのなら、魂が消滅したってかまわない。
もうリオンがこの世にいない以上、俺に出来る償いは、こんな事だけだ。
今更「許して」なんて、身勝手な事を言おうとも思わない。
けれど消える寸前まで、リオンのことを想う事だけは見逃して欲しい。
俺は魔獣の手のひらにある青い炎に、ゆっくりと唇を寄せた。
『……駄目ですっ!! 兄様!!』
突如、頭の中に、死んだはずのリオンの声が響いた。
同時に、俺に差し出された炎が揺らめいて消える。
「兄様、今です!! 僕の言う『呪文』を唱えて下さい!!」
「……そんなことより……おいっ、お前なのか!! リオンなのか!!」
あまりに唐突な出来事に、俺はどうして良いかわからなかった。
しかし、リオンの声は続く。
「そうです!!
ああ、もう抑えきれない……。お願いです!!
『アウラデッド・アースラ・キリク』と唱えてください!!」
切羽詰ったその声に、俺は問うことを止めた。
何がなんだかわからないが、そこにリオンがいて、俺に助けを求めている。
「アウラデッド・アースラ・キリク!!」
叫んだ瞬間、リオン――――いや、弟の体に取り付いた魔物が苦しみもがく。
「畜生、アースラ!! 引っ掛けやがったなァ!
呪いは兄だけでなく『弟』にもかけていたのかッ――――!!」
叫ぶ魔獣を俺は、呆然と見つめた。
さっきの呪文はいったい何だったのだ。
はあはあと肩で息をする魔獣の様子が、徐々に落ち着いてくる。
「……兄様……」




