表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/451

4.異変

 気がつくと俺は、見知らぬ家のベットに寝かされていた。

 いつの間にか、夜になっていたらしい。


 窓辺に置かれたランプの炎が優しく揺らめいているのをぼんやりと見ていたら、そばにいたらしいリオンが、俺を心配そうに覗き込んできた。


 一瞬ぎょっとするが、その顔にも服にも血はついてない。

 俺の服にも。


 夢だったんだ……。


 そう思ってほっとした時、部屋の隅でお互いをかばうように折り重なって死んでいる、親子四人の亡骸が目に入った。


 子供二人は、俺とリオンぐらいの年だ。


 待てよ、今着てるこの服、俺のじゃない。

 リオンが着てる服もだ。


 じゃあ、これは一体誰の服なのだ?

 そして此処は、誰の家なのだ?


 まさか……!!


「うわああああああああああああああ!!」


 再び錯乱する俺を、リオンはぎゅっと抱きしめた。

 その髪からは、隠しきれない濃厚な血の匂いがする。


「離せ!! 離してくれこの化け物!! 俺に、触るなぁぁぁ!!!!」


 言ってから、ハッとした。

 弟の大きな瞳からみるみる涙が盛り上がり、細い顎を伝って床に落ちていった。


「……酷いです……兄様……」


 抑揚の無いその声には、ゾッとするものがあった。  


「僕は兄様を守ろうとしただけなのに、兄様は僕を『化け物』と呼ぶのですね……」


 流れ続ける涙とは裏腹に、その瞳には狂気が宿っているように見えた。


「待て……違っ……」


 抵抗する気力を失った兵士まで、皆殺しにした凄惨な光景……そしてリオンを育てたクロスⅦをためらわず殺した激しさを思い出して、思わず後ずさる。


 この少年は、俺が思っていたような、可愛らしく弱いだけの存在ではない。

 その気になれば、俺の命を奪うことだってたやすいだろう。


 リオンの朱金の瞳は、俺をじっと見つめている。


「僕は、地下のあの神殿で、兄様のために祈りを捧げる毎日でも良かった。

 クロスⅦの言うとおり、兄様のために魔力を使い、心を捧げ、一生陽の当たらぬ地下で暮らしても良かった。

 でも、兄様が一緒に行こうとおっしゃって下さったから、僕は大好きな兄様の言うことをきいた。

 …………兄様だけを信じて、ここまで来たのに……」


 すらりとエラジーが、引き抜かれる。


 百数十人もの血を吸ったであろうその刀は、どこまでも澄んでいて、刃こぼれ一つ無く鋭い光を宿している。


 ……ああ、俺はもう逃げられない。

 俺の腕ではこの弟に、到底届かない。


 今から俺は弟に殺されて、ここで死ぬのだ。

 そう思ってごくりと喉を鳴らしたとき、リオンは刃を自分の方に向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ