3.異変
「……兄様、お怪我はありませんか?」
心配そうに触れてきたリオンの手は、血でドロリとぬめっていた。
「は……放せ!!」
どうして、こんな言葉をかけてしまったのか。
リオンは命がけで俺を助けてくれたのに。
俺の大事な弟なのに。
でも俺は、こんなにも大量の殺戮を見たのは初めてだった。
本当に気が動転していた。
伸ばされた手を思わず振り払い、そのままぺたんと尻もちをついた。
怯えていたのだ。
この小さく華奢な弟に。
その瞬間、リオンは何ともいえない悲しそうな顔をした。
しかし新手の兵が現れるや否やそちらに向き直り、恐ろしいほどの冷徹さで殺戮を重ねていった。
魔剣の威力は凄まじく、アレス兵たちが次々と絶命していく。
近辺の大地は赤く染まり、悲鳴だけが響き渡る。
もはやリオンに怯えているのは俺だけではなかった。
体格のいい大人の敵兵ですら、リオンの化け物じみた戦い方に怯えていた。
遠巻きに覗いていた数人の村人でさえ。
半時たったその後、動く敵兵はもう居なかった。
リオンに一閃で切り殺された敵の死体だけが、恨めしそうに宙を睨んだまま折り重なっている。
「うわあああああああああああああああああ!!!!」
あの優しくて気の弱い、少女のように愛いらしい弟がこんな風に人を。
精神がどうしてもついていかなかったのだろう、俺はそのまま意識を手放した。