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再会小話5 だから、幸せに4

 奴らの家は、すぐに見つかった。

 意外と聖廟から近い村だった。


 これなら元いたところから、馬車で半日かかるかどうかというところだなァ。


 村で一軒しかない念写師の家だったので、誰に聞いても奴らを知っていた。

 容姿も目立つしな。


 しかしまだ夕暮れ前だというのに、『本日休業』の看板がかかったままだ。


 とりあえず呼び鈴を鳴らそうと手を上げたところで、いきなりドアが開いた。

 そう、リオンだ。

 相変わらず心臓に悪い奴である。


「……………………いらっしゃい、ヴァティールさん」


 フリルいっぱいの可愛らしいワンピースを着たリオンだが、テンションは限りなく低く、葬式のような暗さを醸し出している。


 うお、何かあったのかッ!?

 つい条件反射で身構えてしまう。


「……とりあえず、中にお入り下さい」


 リオンがうなだれたままワタシを案内する。


 通されたリビングは品良くまとめられ、田舎にしてはこぎれいにしてある。

 窓辺には花も飾ってあった。


 しかし、何かが足りない。


 ああ、あれだ。

 金魚のフンのように弟にくっついて回っている、あの馬鹿兄の姿が見あたらないのだ。


「エルはどうしているのだ?

 家からも近所からも気配が感じられないがァ……。

 喧嘩でもしたのか?」


 そう問うと、リオンはしょんぼりとしたまま首を振った。


「兄様はブルボア王都に用があって、僕だけがお留守番なのです」


 へえ?


「ナゼ一緒に行かなかったのだ? オマエらしくも無い」


「はあ……少々わけがありまして」


 リオンは言いづらそうに言葉を濁した。


「まさか浮気か!?」


 反射的に言ってからマズイと気がついたが、もう遅かった。


「……そんな事を言う口は、封じてしまいましょうかねぇぇ」


 顔はにこやかだが、目は笑っていない。

 アースラそっくりの邪悪な笑みだ。


 今のワタシの体が本来の物なら、特別な罠でも仕掛けられてない限り、リオンには間違いなく勝てる。


 しかし今使っているのは、愛娘の体。

 本気で戦えば、アリシアの体は壊れてしまうだろう。


 悔しいが、ここは『謝る』一択だ。


「あ、いや、これはワタシが悪かった!

 オマエたちほど似合いな夫婦はいないともッ!!」


 心の中で『割れ鍋に綴じ蓋的な意味でなァ』と付け足しながらも、その場を取り繕う。


「そ、そうですよねっ!」


 リオンの顔が少し明るくなる。


「そうとも! オマエは可愛いし、料理も掃除も上手い。良き妻ではないか!」


『とんでもないヤンデレだけどな』と、心の中で更に付け足しつつ歯の浮くようなセリフを並べる。


 しかしその甲斐あってか、リオンの瞳から邪悪な炎は完全に消えた。


「ですよねっ。

 兄様もいつもいつも、僕のことを『可愛い』って言って下さいますもの~❤」


 邪悪な炎が消えた事は喜ばしいのだが、何だか別の炎がともってしまったらしい。

 そこから地獄のノロケがスタートした。


 兄が居なくてよっぽど暇だったのか、リオンはそれから14時間もノロケ続けた。


 リオンたちの家に着いたのは夕刻前だったので、食事は出してくれた。

 しかし、作っている間も台所に引っ張っていかれ、ノロケを聞かされ続けた。


 食事が終わったら皿洗いを手伝わされ、もちろんその間もノロケは続行だ。

 しかも、そろそろ話を切り出そうとしたその瞬間、


「僕、一度女子会?……と、いうのをやってみたかったのです❤

 今夜は二人で楽しくお喋りしましょうねっ♪」


 と言いやがり、徹夜でノロケに付き合わされた。


 誰が女子なんだ?

 女子なんてココには一人も居ないだろうがッ!!


 以前より明るくなったのは喜ばしいが、付き合うこっちの身にもなってくれ……。

 


 夜も白々と明け、鳥たちのさえずりが聞こえだす。

 そろそろ我慢も限界かと思われた頃、リオンが思い出したように呟いた。


「……そういえばヴァティールさん、わざわざ訪ねていらしたのは、何か御用でもお有りだったからでしょうか?」


 気づくのが遅せェ!!


 しかし、リオンに頼みごとをするなら今がチャンスだ!

 14時間もノロケを聞いてやったのだから、今度はこちらの望みも聞いてくれッ!!







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