再会小話3 そうだ、バイトをしよう 6
「くっ……!!」
リオンの涙を見たエルが、タキシード姿で走り去る。
おーい。リオンは置き去りでいいのかァ?
……と思っていると、エルは何かを手に、すごい勢いで引き返してきた。
よく見ると、その『何か』は『伝唱石』だった。
その長細い石に向かって喋れば遠隔地の相手に声が伝わり、耳に当てれば相手の声が聞こえるという、大変高価な魔道具の一つである。
エルはその『伝唱石』を支配人に差し出す。
支配人は怪訝な顔をしながらもそれを受け取り、耳に当てた。
結果として、模擬結婚式はエルとリオンで盛大に行われた。
花嫁はとてつもなく貧乳だったが、女性客からの評判は概ね良かったようだ。
多分、美しさではかないようもない超絶美少女(仮)のその胸が『自分よりも小さいこと』が喜ばしかったのだろう。
支配人の方は、あれからずっと真っ青な顔をしていたから……相当高位の人間から叱られたと推測できる。
ワタシたちはバイト代に加え、高額の和解金を彼から受け取り、『お詫びに』と用意してくれた高級ホテルに引き上げた。
「なァ、あの伝話相手、誰だったのだ? まさか社長の第四王子か?
でもオマエラの情報って王子たちは知らないのだろう?」
たしか前に、そのようなことを言っていたはずだ。
本当はさっさと転進したかったが、興味が勝ったのでノコノコと部屋までついていき、人目がなくなったところで聞いてみる。
「ああ。伝話相手なら、ブルボアの現王だけど?」
当たり前のように涼やかに言うエルに、流石にビックリする。
「前にも言ったが、代々の現王だけは俺達の素性を知っている。
定期的に連絡もとっている。
『オマエのところの馬鹿息子の会社の支配人を締め上げろ。
さもなくば、伝説の魔獣ヴァティールが式場で大暴れするぞ』と言っておいた!」
エルは満足そうに胸を張った。
げェ!
「な、何でワタシが暴れることになっているのだッ!?
関係ないじゃないか。
どうせなら『極悪魔道士のリオンが式場で大暴れするぞ』とでも言っておけばいいのにッ!!!」
そういうと、エルはキョトンとした。
「えっ? 無理無理。俺の可愛いリオンは優しいからそんなことしないし。
だいたい、脅しだとしても、そんなイメージの悪いことに愛するリオンを使えるわけないって。
あはは~」
昔は『名宰相』の肩書きを持っていたというこの馬鹿男は、空気を読まずに爽やかに笑った。
貴様…………ワタシのイメージならどうなっても良いというのか。いつかコロス……。
しかしワタシは黙った。
「コロス」などと口に出すと、リオンが逆ギレするかもしれないからだ。
逆ギレのあげく、再び封じられでもしたらたまらない。
それに、今回はエルも『アリシアの体』に惑わされず、馬鹿なことを言わなかった。
空気は読めないなりに、進歩はあったと言えよう。
他は些細なことと思って我慢……我慢しかない。




