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再会小話3 そうだ、バイトをしよう 3

「いらっしゃいませ!」


 ワタシは美しいドレスを身にまとい、にこやかに笑って客を出迎えた。

 人間生活が長いので、これぐらいの芸当は朝飯前である。


 皆ワタシに目が釘付けとなっているなァ。

 うんうん。我が娘アリシアは本当に美しいからっ!


「いらっしゃ……」


 次の客に目をやって、ワタシは「ウッ」とうめいた。

 全力で回れ右しようとしたら、長いドレスを容赦なく掴まれる。


 390万YEENするから、絶対に汚すなと言われていたそのドレスを。


「こんにちは、ヴァティールさんっ!」


 柔らかく愛らしげな声がワタシの名を呼ぶ。

 そう……絶対に会いたくなかった『ヤツ(ら)』が現れたのだ。


「先日は色々とご迷惑をおかけしました。

 お詫びしようとお部屋に伺ったら、もうあなたは旅立ってらっしゃって……こんなところでお会いできるとは、何て幸運なのでしょう!」


 リオンはパアァと顔を輝かせたが、ワタシの方は、限りなく顔が曇っていたと思う。


「な、何でオマエラがこんなところに……もう結婚式は46回もやったのだろう?

 まだやるつもりなのかッ!?」


 ゲンナリとしたワタシの前に、エルが颯爽と進み出た。


「それは違うぞ?

 結婚式の回数は計51回だ。お前とエルシオンで別れたあと、また5回ほどやったからなっ☆」


 そう言って奴は嬉しそうに頬を緩ませた。


 ウゼェ。限りなくウゼェ……。


「ヴァティールさん。実は僕らも『お仕事』でここに来ているのです」


 リオンが愛らしく手を胸に当てながら言う。

 その胸は当然、見事なまでに真っ平らだ。


「仕事……」


 なるほど。


 ここは金持ち御用達の式場。

 誰かに貴人の『暗殺』を依頼されたのだな?


 そう言えば糞アースラも、暗殺ダイスキな奴だった。


 それとも『式場ごと破壊せよ!』と頼まれたのか!?

 アースラも、大規模破壊は得意中の得意だった。


 どちらにせよ、ワタシを巻き込まないで欲しい。

 せめてバイト代を受け取ってからにしてくれないだろうか……。


 ゲンナリしていたら、空気を読まない男・エルがとうとうと語りだした。


「実はこの式場……ブルボア王国・第四王子経営の会社の一つなのだ。

 俺は美形で有名な現ブルボア王の若い頃に大変似ている。

 そこを見込んで『人寄せ』にバイトして欲しいとココのスカウトマンに頼まれたのだ」


 ほう。ワタシと全く同じパターンか。


 しかし、似ているのはむしろ現王の方なのだと思うぞ?

 王は何代か後のエルの直系子孫だ。よく似ているのは不思議でも何でもない。


「俺は基本、王家がらみの仕事には関わらないようにしているのだが、町でスカウトされた時『兄様と二人でする模擬結婚式の仕事なら是非やりたいです❤』とリオンが言うのでつい引き受けてしまったのだ。

 そう言えば俺たち、回数は多いけど地味婚しかしたことなかったしな。

 この仕事を引き受ければ、リオンに最高クラスのドレスを着せてやることが出来る。52回目の結婚式代りにもなるから丁度いい。

 ……じゃ、そういうことで。お茶くみ頑張れよ♪」


 エルはリオンを抱き寄せ、係員の誘導に従って別所に歩いて行った。


 ふむ。若干馬鹿にされたような気がしないでもないが、まぁ良い。

 奴は私のウエディングドレス姿を見ても動揺しなかった。


 リオンがヤキモチを妬かないよう、あいつなりに頑張っているようじゃないか。


 普段は空気を読まない男だが、奴も痛い目に合いまくって少しは『脳みそを使う努力』を始めたのだろう。

 実に喜ばしいことだ。


 今回はきっと大した被害もないに違いない。





 

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