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そうだ、エルシオンランドに行こう!(再会編2)9

 食事を終えると、リオンはワタシをトイレに引っ張っていった。

 もちろん『女子トイレ』の方にだ。


 コイツ男の癖に、なんてナチュラルに女子トイレに入るのだろう。


 ……ってワタシもか。


 別に排泄の必要は無いのだが、人間に紛れて暮らすなら、たまにはトイレぐらい行っておかねば怪しまれる。

 最初の頃はリオンの体だったときの癖が抜けきらず、男子トイレを開けて阿鼻叫喚の騒ぎに陥れてしまったが、さすがに百年以上たった今ではそのようなミスはしない。


「……実は、兄様には聞かれたくないお話があってここにあなたをお連れしました…………」


 リオンが言いづらそうに言葉を吐き出した。


 そんな事だろうと思っていたよ。

 リオンなら、ワタシにトイレなど必要ないことぐらい知っている。


 噂に聞くアレか?

 トイレに連れ込んで、男の目の無いところでイジメるってやつか?


 一瞬身構え、脱出口を目で確認する。

 でもどうも、違ったようだ。


「……兄様は、まだアリシアさんに想いを残してるのでしょうか?

 僕は胸も全然無いし、僕の事なんか本当は…………本当は…………」


 そこまで言うと、リオンは『うわ~ん』と泣きやがった。

 本当に、『うわ~ん』と。


 何だ、意外と気にしていたのだなァ。

 アリシアが生きていたのは、もう何百年も前の事なのに。


 しかし、吹っ切れていないという点ではワタシも一緒か。


「もう、昔の話だよ。今はオマエと結婚しているのだから、オマエを一番愛しているに決まっているだろう?」


 ワタシはもっともらしい事を適当に言ってみた。

 逆切れされたら困るからだ。


「でもっ……兄様はあなたにキスしたがったのでしょう?

 僕の事なんか本当は好きじゃなくて……結婚して下さったのはただの同情かも……ううっ……」


 可愛らしく、誰よりも女らしく、よよ……と泣くのはいいが、ここはレジャーランドの女子トイレ。

 つまり、前にも後ろにも驚くほどの数の女たちが並んでいる。


 奴らがいっせいに聞き耳を立てだした。


「ちょ……リオン、そういう話はここでは…………」


「だって、だって、兄様に聞かれずにすむ場所はここしかないのにっ。

 うわぁぁ~ん!!」


 げ。


 アリシアの体を借りて活動しているときに、そういう事はやめてくれ。


 リオンの体を使っていたときは、正直言って世間体などどうでも良かった。

 しかし我が娘アリシアは奴隷解放運動を行い、奴隷たちが解放されたその後も差別を受けないように力の限り努力したのだ。


 その結果『ブルボアの聖母』と呼ばれ、皆に惜しまれながらその生涯を終えた。


 愛娘の体を借りているときは出来るだけアリシアの努力に見合うよう、聖母のような……は、無理としても後ろ指差されるような行いだけはすまいとずっと頑張ってきたのに台無しだ。


 何とかリオンを泣き止ませようと必死で頭をなでてみたりしてみたが、


『レズ……?』


『なんか兄と兄嫁とレズの三角関係らしいよ?』


 とか、周りが更に騒ぎ出す。


 あれだけ胸がぺったんこで『僕』と言っているリオンが『男』だと誰一人、気がつかないあたり、ここには節穴の持ち主しか居ないようだが、それだけに節穴たちの妄想は留まるところを知らないようだ。

 

 ……ええい、いい加減泣き止まんかッ!!

 むしろコッチが泣きたいわっ!!


 それでもどうにかこうにかなだめてトイレから出る。

 だてに人間を、赤ん坊から育て上げてきたわけではない。


 しかし自分の娘ならともかく、何でこんなクソガキのために頑張らねばならぬのだ。


 は~。疲れた。







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