再会小話(前回外伝の数年後のお話)1
注:前回外伝の数年後のお話です。
ヴァティール視点となります。
「ヴァティー……ル……?」
驚愕の瞳でワタシを見たのは、そう、空気をまったく読まない男・エルだった。
今の外見は二十歳前後。
輝くような金髪に金眼。すらりとしなやかに伸びた長身。
服は質素だが、それでも育ちが良さそうなことは一目見てわかる。
相変わらず、見た目だけは 無 駄 に良い人間だ。
ちなみにワタシは今、飯屋の裏の人気の無い場所で、オッサンの襟首を掴んでシメている最中だった。
何でこんな場所にいるかというと…………このオッサン、ワタシの尻を触りやがったのだ。
今のワタシはリオンではなく、アリシアの体を借りている。
最初は老齢のままだったが、遺体を傷めぬように少しずつ少しずつ……それこそ1年以上かけて根気よく肉体を若返らせた。
現在のワタシでは、その方法でしかアリシアの体を若返らせることは出来ない。
娘の体は、やたら頑丈だったリオンの体とは違うのだ。体を傷めぬことを最優先に考えるなら、この程度の魔力しか使うことは出来ない。
まァ、アースラの封印がかかっていたのでリオンの体も年齢を勝手にいじることは出来なかったが。
さて、わが娘アリシアはたいそう美しい娘だった。
若返らせた今は、18歳ぐらいの外見となっている。
長いつややかな栗色の巻き毛に、肌は白く、陶磁器のようにきめ細かい。
唇は薔薇色で、見る人々を魅了した。
それはいいのだが、この美しさは邪な男どもも魅了する。
女の一人旅と知ると舐めてかかるのか、おっさんから若いのまでやたらと声をかけてくるし、どさくさに紛れて触ろうとする男も多い。
もちろん、ワタシとて警戒はしている。
愛娘から預かった大切な体を邪な男に触られるなど、到底容認できないからな。
しかしだ。
今のワタシは体を傷める転移魔法をほとんど使えない。
人間のように徒歩で、あるいは馬車で移動し飯も食う。
夜はアリシアの体をベッドに横たえるために宿屋にも泊まる。
自分の『本体』探しの旅が終わるまでは、このような『人間に近い生活』をしていくことになるだろう。
ところが邪でない男たちであっても、ワタシが酒場や飯屋に入るとたいてい奢ろうとしてくれる。
そういう奴らまで拒絶していては旅がつまらぬものになるので、時々は奴らに奢られながら人間観察をして時間をつぶすことにしている。




