王子と魔獣・if(外伝)5
ああ、やっぱり兄様は綺麗だな。
至近距離で見る僕の兄様は、益々綺麗で魅入られる。
閉じられた瞳は見えないけれど、なんて長い睫だろう。
金の髪は白い肌に映えて、一つの完成された芸術品のようだ。
その唇に触れたい、と、ふと思った。
今望めば、兄様は僕をお嫁さんにしてくれるかもしれない。
ホンの幼いころから、僕はそれを願ってきたのだ。
もう、アリシアさんは居ない。
僕がこっそり調べたところによると、あれから200年以上の時が経っているらしい。
この田舎は本屋さんもないし、ブルボア王国からもエルシオンからも遠く離れているけれど、そのぐらいは発展した品々を見ればわかるものだ。
200年も未来。
つまり、アリシアさんとの誓約はもう終了している。
僕の兄に対する想いは世の常識に照らし合わせると『普通』とは言いがたい。
諦めた方が、多分兄のためになる。
だから諦めようと、何度も思った。
けれど『僕を殺した事』の償いに、『婚姻の誓い』の言葉を無理やり言わせれば……兄様を誓約で縛りつければ……僕は最愛の人を永遠に手に入れることが出来る。幼い頃からの夢が、今なら叶うのだ。
でも…………そんなことはしないよ。
それでは黒き魔炎を手に、兄様に皆を殺すよう迫ったときの僕と何も変わりはしない。
「おい、いつまで目をつぶっていたらいいんだ?」
部屋の隅でごそごそしだす僕を不思議に思ったのか、兄様が声をかけてくる。
「もうちょっと。もうちょっとだから待っていて下さいね」
よし!
準備できた!!
「おいっ! 何か冷たいんだけど!」
ひやりとした感触に我慢できなかったのか、兄様が目を開ける。
あ~っ!
まだ「いいよ」って言ってないのに。
でもまあ、いいか。丁度出来上がったところだし。
手鏡を渡すと兄が「うっ!」と呻いた。
「何だよ、コレっ!?」
兄様の顔には墨で
『兄様のバカ』
と、書いておいた。
そして、
「コレで許して差し上げます」
と、笑っておいた。
言っておくけど、僕は兄様が僕を刺したことはちっとも恨んでいない。
アリシアさんとの結婚だって、今ではちゃんと祝福できる。
でも、別の事についてはちょっぴり恨んでいる。
兄様ってば、『今の僕の気持ち』にはちっとも気づいてくれないんだもの。
こんなに大好きなのに。
そりゃあ、今では僕にだってそれなりの常識がある。
結婚は普通、異性とするものだとも知っている。
それでも兄様のことが好きでたまらないのだからしょうがない。
しょうがないじゃないか。
そして兄様も……時々だけど、僕の事を『弟として以上に好き』なように見えるんだけどなぁ?
「…………結婚しちゃいなよっ。この私が許す!」
え!?
一瞬アリシアさんの、あのイタズラっぽい声が聞こえたような気がして振り向いた。
そこには誰も居なかったけれど。
「兄様がそう言ってくれたらね」
僕の言葉は窓からそよぐ風に溶け、兄だけが不思議そうに見ていた。
fin
いつも読んで下さってありがとうございます!
くっつきそうでくっつかない二人でした。
でも、やっとBLタグが役に立ったのか!?(役立ってない気もするけど)
ちなみにリオンはこの後、『兄の事は大好きだけど、このままではイカンのでは』と思い直し、女の子と付き合ったりもしてます。
もちろん兄同様、あっという間に逃げられまくってますが。
このへんもいつか外伝で書きたいな。
次の外伝のお知らせはまた活動報告で。
多分コメディ。
アリシアの姿で暮らすヴァティールがとうとう、エルたちとバッタリ……出会うかも!?
読んで下さる皆様、コメント、アドバイス下さった皆様、いつもありがとうございます!!
ではまた~!




