葬送(ヴァティール視点外伝)9
ワタシの姿を見つけたエルは、細く落ち窪んだ目を見開いた。
「アリシア……こちらへ……」
請われるままにエルの元に向かい、弱々しく差し出された皺だらけの手を握る。
きっとアリシアなら、こうしただろうから。
エルはもう……泣かなかった。
ワタシを見て、安心したように微笑んだ。
すっかり面変わりしているが、その微笑の中には、わずかに昔の面影が残っていたように思う。
「さよなら、アリシア。そして……」
人の耳には拾えなかったであろう細い声も、ワタシには聞き取れる。
最後の言葉は、
「ヴァティール、ありがとう。もう自由になってもいいよ」
だった。
ああ、オマエは知っていたのだなァ。
奴が10000回以上繰り返した話から察するに、ワタシの魂はアリシアの子供のいずれかに受け継がれていったと信じていたようにも思える。
しかし、最後の瞬間、奴はワタシを見てそう言ったのだ。
ボケ老人の最後のたわごとだったかもしれない。
それでも奴はそう言い、その瞬間、ワタシにかかっていた魔縛のすべてが解けた。
もうエルの許可なく、どこにだって行ける。
その後は眠らせた人々を術で起こし、ワタシはもちろん姿をくらませた。
部屋に居た親族たちにはエルが、いつの間にか、眠るように息を引き取ったように見えたろう。
アリシアの棺はワタシが抜け出したのでもぬけの殻だが、身代わりに見えるモノを置いてきた。
問題はないはずだ。
エルの方は手はず通り魔道士がやって来て、すぐにその体を凍らせた。
ちなみにその魔道士は例の、あの時のド下手糞だ。
年を重ねてもほとんど変わっていない下手糞さが何だか泣ける。
それはともかく、エルにはこれからの数ヶ月、アリシアのときのような葬儀の旅が待っているのだろう。
明日外伝ラストです。




