葬送(ヴァティール視点外伝)7
今度は10年眠ってみた。
さすがにエルはもう、今世での寿命を終えていることだろう。
100歳を超えて生きている人間など、本当に稀なのだから。
エルが今世での命をいったん終えれば、ワタシにかかっていた魔縛は自動的に解ける。前回の事から考えても、それは間違いない。
術をかけ直す力を持ったリオンも、どこかで眠ったままのようだ。
ワタシは――――――――やっと自由になれるのだ。
無論、エルは、アースラから不死の呪いを与えられた身。
寿命で死んだとしても、どこかには存在しているはず。
しかし生き返れば、子供の姿。
皆の前に姿を晒すわけにはいかぬから、それを避けるためにも城外に身を隠しているのではあるまいか。
それとも……リオンのところにでも行って、今度こそ安らかな眠りについているのかもしれない。
奴は真性のどブラコンだからな。
でも、それもいいだろう。
永遠の命は人の身には過ぎるはずだ。
溶けない氷の敷いてある、あのガラスの棺に横たわれば、死んだも同然の状態になれる。
もう、この世の苦しみとはオサラバ出来るのだ。
しかし奴は生きていた。老いた身で生き続けていた。
魔縛は当然解けていない。
深夜になると、エルは杖をつき、痩せて枯れ木になったような体で、それでもアリシアの元にやってきた。
齢はもう百をとうに超えているのに、いったいいつまでこの老いた体にしがみついて生きる気なのだろう?
「アリシア……どうしてこんなに早く逝ってしまったのだ……」
奴は10年前と全く同じセリフを吐いた。
アリシアが死んでから、来る日も来る日もそのセリフを言い続け、リオンのときのような執念深さを持ってここに通って来ていたのだろうか?
そうしてまた、ワタシの頬を撫でるのだ。
若く美しかったときとは違う、しわしわの、ボロボロの指で。
ワタシは醜いモノが嫌いだ。
アースラによって醜い戦死体の中に突っ込まれてからは、なおさら嫌だ。
エルに触れられたとたん、意識の暴走が始まってもおかしくはない。
しかし不思議なもので、そうはならなかった。
ワタシもそれを予見していた。
老班が浮かぶ皺だらけの手だったとしても、ワタシには何故か泣いている子供の手にしか見えなかったのだ。
それから4年近く、ワタシはエルに付き合った。
眠ってしまえばあっという間に時が過ぎるのに、エルから目が離せなくなった。
年を取ったエルは、危なっかしい。
意識だけを体から飛ばして、エルの行動を追う。
昼間はうとうとと眠り、側には使用人が控えているので不自由はなさそうだが、どこか夢うつつだ。
使用人が下がった深夜、エルは杖をつき、足を引きずりながらやってくる。
ほら危ない!
気づかれないように魔力を使って助けてやる。




