アリシア外伝2 掴む手 5☆
ふわふわとした夢の中、私は小さな子供だった。
体が熱い。頭が痛い。
「お母さん、苦しいよう」
呼んでも側には誰も居ない。
ああ、この時間だもの。しょうがないよね。
私のお母さんは、小さな宿屋を経営している。
古くてボロい安宿だけど、それはお父さんが残した『形見』のようなものだった。
父さんは、私が赤子のときに亡くなった。
なので母は、大変な苦労をして私を育ててくれた。
わかっているよ。
苦しくても、我慢しなきゃ。
お客さんを放っておいて、私の看病をするわけにはいかないものね。
それでもお母さんは、最後のお客さんが夕食を食べ終えたら、急いで戻ってきてくれるはず。
そうしてあの優しい笑顔で、ずっと私の側に居てくれるのだ。
だから、あと数時間……我慢、すれば良いだけのこと。
「……お母さん、苦しいよう。頭が痛いよう」
我慢しなきゃと思うのに、布団をかぶって母を呼んでしまう。
どうせ聞こえないのだから、小さく声に出すぐらいは許して欲しい。
「……お母さん、お母さん…………」
呟いているうちに、ぽろぽろと涙が零れてしまう。
泣いちゃ駄目だ。
赤い目をしていたら、お母さんが心配してしまう。
お母さんだって本当はすぐにでも私の元に来たいのに、頑張って働いてくれているのだ。
その時、フッと体が楽になった。
額には冷たいタオルが置かれている。
ああ、やっとお母さんが戻って来てくれたのだ。
そう思って嬉しくて、母を呼ぶ。
「…………お母さんじゃないんだが」
聞いたことのあるような声に目を開くと、ヴァティール様が何だかすまなそうにうつむいていた。




