1.外の世界
我が国は他国と違い、城の警備は物々しくはない。
別にそれ自体は昔からの事で、ごく普通の見慣れた光景である。
もちろん国境沿いはそれなりに兵士がいるし、各地方も備えは十分にある。
王が国外に出るときは、相当数の精鋭を引き連れていく。
しかし王が住まう城中は警備兵が少なく、女官なども少ない。
ロイヤルエリアでさえ、他国に比べればありえないぐらい手薄いのだ。
それでいて、城に間者が入り込んだとか、王族や重臣が暗殺されたという話は、全く聞かない。
王子や貴族が街に単身遊びに行ってさえ、殺されたり盗まれたりすることはない。
ずっとその事が不思議だったけど、『善の結界』が存在しているなら不思議なことでも何でもないのだろう。
結界内にいる者たちは『悪意』を持ち続ける事ができないのだから。
しかし、これから我が国は変わっていかねばならない。
罪の無い子供一人に全てを押し付けて、安穏とした暮らしをおくるのは、もう終わりだ。
我が国は大国。結界の力無しでも、きちんと防衛出来るぐらいの財力も人力もある。だから、結界や怪しげな魔獣の力になどには頼らず、人の力だけでやっていくべきなのだ。
俺は、見回りをする兵達のタイムスケジュールを頭に叩き込んだ。そして深夜、弟と共にそっと部屋を抜け出した。
もちろん、王族の私室を集めた第四フロアに通ずるロイヤルエリアの前には、いつも複数の兵が待機している。
でも、警備のゆるいウチの城だから、そんなのはどうにでもなる。
例えばエリア内の北端の窓。ここは警備兵から死角となる。
その窓から黒いロープをつり、下の階のバルコニーへ降りる。
この暗さなら、まず外からはわからない。
そのために、わざわざ月のない夜を選んだのだ。
バルコニーは王族クラスの貴賓室に続いているが、今は特に使用されていない。
夕刻にこっそり鍵を開けておいた、そこの窓から中に侵入し、城内にいったん戻り、足を忍ばせて荷物搬入用の裏階段を下りる。
あとワンフロア。
一番下の階の階段横は、厨房になっている。
この時間なら、もちろん無人のはずだ。
厨房には食料を運び込むための裏口があるし、そこから程ない場所に、裏門もある。
正門と違って、夜間は鍵が閉められるだけで、警備兵もいない。
そこから逃げられる。
厨房の鍵は、すでに複製品を作っておいた。
気を鎮めながら、ポケットに入れておいた鍵を確かめる。
あれ……?
俺は厨房の窓を見て、驚いた。