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アリシア外伝2  掴む手 2

 最初の一日は、酷い有様だった。


 いくら私でも、怖いものは怖い。

 深夜にヴァティール様を引き取りに来るエルの前では平気な振りをしていたが、私だって普通の人間だ。


 前の主人も壊れた狂人ではあったけど、少なくとも『人間』ではあった。

 王の前にはひれ伏すしかない、王によって閉じ込められた狂人でしかなかったのだ。


 しかしヴァティール様は違う。


 姿は人間であっても、私の知っているリオンとは全く別のモノ……強大な力を持つ異界の魔物なのだ。


 エルから聞いたところによると、彼は大変気まぐれで、何をしでかすかわからないらしい。

 そしてある事情から、人間のことは大嫌いなのだと知った。


 とはいえ、ヴァティール様は別に私を怒鳴ったり、傷つけたりはなさらない。

 しかし声が大きいので、大変怖い。


「おい女!」


「は、はい何でしょうか?」


 歯の根が合わないなんて、知られるわけにはいかない。

 ほんの些細な『粗相』があってすらもならない。


 この魔物の機嫌を損ねたら、大変な事になる。

 アレス軍が一瞬で滅んだように、それこそわが国だって、この魔物の機嫌一つで滅ぶかもしれないのだ。


 この国は……この国の人々は、私に『人間らしく生きる場所』をくれた。


 新しい祖国であるこの国のため、優しくしてくれた皆のため……そして最後まで誇り高く戦ったリオンのためにも、私は毅然としていなければならない。


 十万の敵にたった一人で立ち向かっていったあの子の事を思えば、大人である私がこの程度の恐怖に耐えられないで、どうするというのか。


 エルだって弟の死は身を切られるよりつらいだろう。

 それでも文句も言わず、王の側で早朝から深夜まで働きづめだ。


 時々は恐ろしくて身がすくむけれど、私はそれでも笑顔を作り、働き続けた。



 そうして二カ月程が経ち、私も徐々に仕事に慣れてきた。


 ヴァティール様は、思ったよりは悪くないご主人様だった。

 前の主人と比べれば無茶も全然言わないし、立ち振る舞いも『化け物』というよりは『人間』に限りなく近い。


 心の底に潜む『怖い』という感情は消えないが、仕えるのが苦痛というほどでもなくなってきた。


 人外の化け物と接したのは初めての経験だったけど、彼は特に魔法を使うことも無く、大抵は私と陽気に喋ったり、窓の外を見てため息をついたり、時には現代の本などを読んで静かに過ごしたりなさっている。


 でもエルがヴァティール様の様子を見に来たときだけは、別だ。

 まるで別人のように荒れて、カードを投げ捨てたりテーブルをひっくり返したりもなさる。


 そうかと思うと、エルが出て行くのを確認すると、いそいそと部屋を片付け、カードを拾い集めたりもなさるのだ。






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