アルフレッド王編・番外(連載コメディーとなります)5
「先ほどの言葉は聞き捨てなりませんな」
いきなり現れた私の言葉に皇太子はギョッとして目を見開いたが、すぐさま私を力で捕らえ、小刀を突きつけた。
残念ながら私は本の虫だったので、武術はからきし苦手。
一方皇太子は武芸に長け、筋骨隆々。
あっけなく捕まった。
「これはこれはアルフレッド王よ。
飛んで火にいる夏の虫とはあなたの事ですな。貴殿をわが国の人質に……」
その言葉が終わらぬうちに物陰から飛び出たのは親衛隊長のエルで、目にも留まらぬ速さで皇太子の小刀を弾き飛ばし、逆に羽交い絞めにした。
エルという男。今は婚約中でふぬけているが、それでも強さは相変わらず群を抜いている。
体格は皇太子の方がやや勝るが、易々とねじ伏せてしまった。
「くっ……こんな事で私を……」
皇太子は魔術をつかって逃れようとしたが、羽交い絞めにされている彼の真正面に、ヴァティール殿がいきなり転移魔法で現れた。
しかもいつもと違い、禍々しさ『全開』だ。
「ワタシの娘の部屋で、オマエはいったい何をしているのかなァア?
覗きか? いじめか?
さァ選べ。生皮をはがされて海に叩き込まれるのが良いか、刻まれて豚の餌になるのが良いか」
……とまぁ、ヴァティール殿は凄んだわけだが、エリスの取り成しによって皇太子は何とか一命を取り留めた。
代わりにえげつないまでの不平等条約を結んでもらうこととなったが。
その後ヴァティール殿は『娘にとって、奴らは危険』と判断したようで、アレスの王族はすべて制約をかけられ、魔術が使えぬ身となった。
もし隠れて魔道士を育成しようものなら『国ごと燃やす』と凄みに凄まれ、転移魔法で呼びつけられたアレス王も皇太子もあっけなく折れた。
日ごろは『娘』たちとニコニコ暮らしている、とても可愛らしいヴァティール殿。
しかし、凄むと本当にコワイのだ。
私もうっかりヴァティール殿の怒りを買って生皮をはがされて海に叩き込まれたり、刻まれて豚の餌にされたりしないように気をつけねば。
妃は、
「ンまぁ、ヴァティールがそんなことを本当にするはずがありませんわ。
おかしな妄言はおよし下さいませ」
と、聖女の微笑で返すけど、お前はヴァティール殿に凄まれたことがないからその怖さがわからないのだ。
彼と渡り合うのは常に命がけなのだぞ。
明後日、外伝ラストです。




