アルフレッド王編・番外(連載コメディーとなります)4
私の新婚生活はこんなだったので、妃の私室のクローゼットに忍んでヴァティール殿に『のぞき』と間違えられでもしたら、確実に命がない。
今日のこの有様は、エリスからの提案とヴァティール殿の事前の許可があるからこそなのだ。
さて、妹に冷たい言葉を吐きかけられた『姫の兄』である皇太子。
どうしたかというと、これが中々諦めない。
噂通り、一筋縄ではいかぬ男のようだ。
「本当にすまなかった、愛する我が妹よ。
しかしあの時は『国民のため』を思えば仕方がなかったのだ。
父王は、皇太子である私こそが人質に選ばれると思っていらした。
私がブルボア王朝の懐深くに入り込み、得意の魔術であのやっかいで下劣なクソ魔獣を捕らえ、屈服させて……」
そこまで言いかけた皇太子の言葉をさえぎって、我が妃はまたオホホと高らかに笑った。
「ンまぁ! 身の程知らずですわ、お兄様。
ヴァティールはとても強くて賢い、素晴らしいお方でしてよ?
お兄様などには到底無理ですわ。不可能ですわ。ありえないですわ」
妃はまたしても『氷のような冷たさ』で実兄を罵った。
いやはや女性は恐ろしい。
それなりには兄にも可愛がられ、しとやかに育ってきたはずと調べはついていたが、女性の心変わりの凄まじさよ。
エリスは今でこそ私に極めて優しいが、もし私が父上のような無体な振る舞いを始めたら、容赦なく捨てられそうだ。
「……ところで、お兄様。ブルボア王国と心から協力し合うつもりはありませんの?
お兄様のお文の通り『人払い』をしてお待ち申し上げておりましたのは、そういう嬉しい話を聞けると信じていたからですわ」
エリスがさっきとは打って変わって優しげに、そして少し悲しげに兄に問うた。
「誰があんな成り上がり新興国と。わが国とは格が違う」
プライド高い、アレスの皇太子はエリスの言葉を鼻で笑った。
「……そうですか。残念ですわ。お兄様」
エリスはそれだけ言い放ってこちら……私の方を振り向いた。
「王よ、聞いての通りです。お出まし下さいませ」
妃の一言を合図に、私はクローゼットを開き皇太子と対峙した。




