12.鳥篭の外へ
父上は、ずっと忙しそうだった。
どうやら北の巨大帝国――――――アレス帝国が、わが国の同盟国に向けて進軍しているらしい。
アレス帝国は、強大な軍事国家である。
例の、美しいが性格の悪い年増の姫の居る……あの国。
皇族すべてが、大変激しいことで知られている。
しかし我が国は、軍事的にそれに劣ることはない。
実は建国当時、うちの国とアレス帝国は、何度も戦争したらしい。
でも、一度として負けたことは無い。
それどころか、魔道士アースラの活躍で大勝し……以来アレス帝国は200年以上我が国の属国だった。
あの国が独立国となって暴走を始めたのは、ほんの50年ほど前の話である。
情勢がきな臭くなってきた今、このままリオンと共に国を捨てて良いのか少し迷った。
だがアレス帝国が我が国に矛先を向けたとしても、あの頃よりも政情が落ち着き、豊かになったわが国が負けるわけが無い。
今なら……結界の加護がなくともわが国なら大丈夫なはずだ。
結界をあてにするやり方は、そろそろ改めるべきだろう。
だとすれば、国を出るのは今のタイミングしかない。
俺が行方不明となり、更に食事の受け渡しが地下の部屋で行われなくなったのを知れば、父王はすぐに結界の消失に気づいて軍を強化するだろう。
平和主義者ではあるが、父は文武に長けている。頭脳も明晰だ。
俺は手紙を父母とエドワード……そして今は字の読めない妹姫ヴィアリリスに残し、そのまま計画を決行することにした。
俺とリオンは、深夜を待って目立たない服に着替えた。
持っていく荷物は、いくらかのお金と小さな麻袋一杯分の砂金。
質素に暮らせば、働かずとも20年は過ごせるだろう。
もちろん大人になれば、俺も庶民に混じって働く。
そのぐらいの覚悟は、あるつもりだ。
「さあ、行こう」
俺は、ためらってうつむく弟に手を差し出した。