11.鳥篭の外へ
リオンの事が父王にばれるのではとずっと用心していたが、最近の父は忙しいらしく、エドワード共々顔を見ることすら稀となっていた。
でも、その方が都合がいい。
あれほど敬愛していた父だが、正直言って今会えば憎しみを覚えてしまう。
母上は、相変わらずお優しい。
でも、もしかしたらリオンの母親を見ている可能性がある。
リオンの容貌は、おそらく実母から受け継いでいる。
ばれる危険性を考えて、結局リオンと母上を会わせるのはやめた。
どう転んでも、リオンは妾腹の生まれ。
母上は、その妾腹の子供を哀れむ記述を日記にしたためていたが、もしリオンの正体を知ったなら、父上に告げないとも限らない。
母の母国は、未だエルシオン王家から多大な援助を受けている。
王妃といえど立場は弱く、夫である王の『愛情』だけが、母を守る全て。
禁忌を犯してまでリオンを守る気持が今の母上に無かったら、俺達は終わりだ。
そうでなくとも、母にまで罪が及ぶことは、絶対に避けたい。
しかし妹ヴィアリリスは、別だ。
まだ幼いあの子に罪が及ぶことはないだろうし、俺が居なくなれば、ヴィーしか国を継ぐ者はいなくなる。
よし。ヴィーだけなら大丈夫。
俺はリオンを妹に会わせるべく、画策した。
わが国は伝統ある大国だが、他国の王室のように、姫の回りに何人ものおつきが居るというわけではない。
だから、王子である俺がヴィアリリスの世話係の乳母と交渉して、自分の部屋に連れ帰る事は、そう難しくはない。
リオンは最初、小さな小さな妹姫をこわごわと見ていた。
「あっ、あの……どのようにしたら良いのでしょうか?
地下神殿にあった御本には、このような場合の対処方法は載っていなくて……いえ、僕が不勉強なだけでお恥ずかしいのですが、つまりその……どうして良いのか……全くわかりません」
言いながらうつむいていくリオンの手を取り、ヴィーの頬に触れさせる。
「……暖かい……こんなに小さいのに……」
リオンは自分の手をまじまじと見つめ、それからヴィーの頭を少し撫でてみた。
すると、ヴィーは嬉しそうに笑った。
見事なタイミングで、それはそれは嬉しそうに笑ったのである。
いいぞ、ヴィー!!
さすが『空気の読める幼女』と日頃からエドワードに褒められているだけの事はある。(俺はけなされているが)
リオンはその笑顔を見て安心したのか、少しためらった後、俺がやって見せたようにヴィアリリスを抱き上げた。
「抱っこ……上手に出来たな、リオン!」
褒めてやると、リオンも良い笑顔で微笑み返してくる。とても幸せそうに。
地下に閉じ込められてさえいなければ、こうやって兄妹3人で仲良く過ごす日常があったはずなのに……。
ヴィーは、言葉はまだあまりしゃべれない。
でも人見知りしない子なので、リオンに抱上げられて、キャッキャとはしゃいでいる。
ああ、俺の弟妹は本当に可愛いな。天使のようだ。
出来るなら、3人兄弟妹としてずっと幸せに暮らしていきたかった。
優しい母上と、優しい城の皆と一緒に、ずっとここで幸せに暮らしていきたかった。
でも、それはもう、叶うことのない望みなのだろうか?




