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アルフレッド王編・夢の国の果て 13

 エルにももう、それなりのわきまえはある。

 表面上は笑顔を貼り付けてヴァティール殿と接していた。


 ……が、それが益々怖い。

 その背後に漂う真っ黒な怨念が見えるような気さえする。


 一方、ヴァティール殿はけっこうエルに好意的だ。

 しかしソレさえもエルをいらだたせる原因となっているようだ。


 私自身についてはよくわからない。


 リオンに蘇ってほしいのか。

 それともこのままヴァティール殿にずっと居てもらいたいのか。



 そしてまた数年が過ぎ、エルも城の者たち同様にリオンを忘れていった。

 

 身長は高くとも、どこか子供らしさが抜けきらなかった彼。

 しかし今ではすっかり大人の男となってアリシアと正式に婚約し、彼女と仲睦まじい。


 心からの笑顔なんて、もうずっと長い間見ていなかったのに、また幸せそうに笑うようにもなった。


 それと反比例するかのように、弟リオンのことを語ることはめったに無くなった。

 部屋にあったリオンの荷もほとんど倉庫に移したらしく、代わりにアリシアの荷が運ばれた。


 秋にはもう、二人の子供すら生まれる。


 私はそれを寂しい思いで見つめていた。


 エルとアリシア。二人の門出は王としては祝福する。

 過酷な運命に翻弄されてきた彼ら。今度こそは幸せになるべきなのだ。


 でも、時とは何と残酷なのだろう。


 あの子はあんなにも兄を欲していたのに。

 あんなにも『覚えていて欲しい』と願っていたのに。


 しかし、今を生きるエルには忘却による癒しも必要なことなのだ。

 私はそう思うことで自分自身を無理やり納得させた。



 忙しく働くうちに季節はあっというまに移り、明日は二人の結婚式だ。


 国の要職についているエルの式ならもっと華々しく行うべきなのだが、彼もアリシアもそれを望まなかった。


 結果、参列者は私と妃……それにヴァティール殿とウルフだけという、あまりにも寂しい結婚式となる。


 式の最後の打ち合わせをしていると、


「子供の名は『リオン』とつけるのです。アリシアと二人で決めました」


 エルは突然……でも案外穏やかな顔で言った。


 そうか。それも良い。

 忘れてしまったわけではなく、前に進むことで弟に報いようというのだな。


 なんだかとても安心したよ。


 それでも人の心は複雑だ。

 

 かつて私がリオンに『弟の面影』を追っていたように、今度はエルが我が子に『リオンの面影』を追うのだろう。


 子が幸せにリオンの年を越えたなら、そのときはエルも……そう、私も今度こそ吹っ切れて前だけを見つめられるようになるのかもしれない。



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